第1回から第4回までは,ユーザーが遭遇したネットワーク・トラブルの現状や,ネットワーク管理者の業務の実態などを見てきました。締めとなる第5回は,ネットワークの運用・管理に活用できそうな情報を紹介しましょう。

コマンドやツールを使いこなそう

 調査では,勤務先ネットの管理者および顧客先ネットの管理者に,ネットワークを運用・管理するときに使っているツールを聞いてみました(図1)。日経NETWORKの本誌でも時々ネットワーク管理に役立つフリーソフトなどを紹介していることもあり,実際に業務でネットワークを管理している管理者がどんなツールを使っているのかを知りたいと考えたからです。

図1●ネットワークを管理・運用するときに使うツール(複数回答)
図1●ネットワークを管理・運用するときに使うツール(複数回答)
すべてのネットワーク管理者にとってpingなどのネットワーク・コマンドは不可欠なものになっている。ネットワーク機器管理ツールやパケット・キャプチャ・ソフトも定番。顧客のネットワーク管理者ではトラフィック監視ツールなどもよく利用されている。
[画像のクリックで拡大表示]

 断トツの1位は「ping,tracerouteなどのネットワーク・コマンド」で,77.9%の管理者が利用しているという結果になりました。管理しているのが勤務先のネットワークか顧客先のネットワークかにかかわらず,8割近い管理者がpingなどのコマンドを使いこなしているわけです。こうしたコマンドはOSが標準で備えているので,特別なソフトをインストールすることなく手軽に使えるのがメリットです。ネットワーク管理者に限らず,ユーザーにも使っている人は多いでしょう。

 これらのコマンドは手軽なだけでなく,ネットワークのさまざまな情報を得るのに役立ちます。日常のネットワークの運用・管理に必要な情報はほとんどこれで事足りると言っていいでしょう。基本的なコマンドについてはオプションまで覚えておくとさらに便利です。例えばpingなら,「ping -t」,「ping -l」などのオプションを併せて知っていると得られる情報は一層増え,ネットワークの運用・管理の助けになります。

 コマンドに続き,ネットワーク管理に使うツールとして多かったのは,ネットワーク機器管理ツール(40.5%)やパケット・キャプチャ・ソフト/LANアナライザ(36.1%)でした。ネットワーク管理ツールは機器の稼働状態を監視するツール,パケット・キャプチャ・ソフトとLANアナライザはネットワークを流れるパケットを収集して,その中身をわかりやすく表示するツールです。これらのツールを使うと,ネットワーク・コマンドでは得られない情報を集められます。ネットワークの異常を早期に発見してトラブルを未然に防いだり,実際にトラブルが起こったときにその原因を突き止めるのに役立ちます。

 ネットワーク機器管理ツールやパケット・キャプチャ・ソフトの利用度を立場別に見ると,顧客先ネットの管理者が抜きん出て多いのがわかります。さらに,全体の順位は下がりますが,トラフィック監視ツールについても,顧客先ネットの管理者の約半分が利用していました。

 こうした結果が出たのは,顧客先ネットの管理者が,勤務先ネットを兼任で管理している管理者よりもネットワークの管理・運用にかけられる時間やスキルが多いためかもしれません。こうしたツールを駆使して,顧客先のネットワークの状況を常時監視しているという回答者も多数いました。トラブルが現象として表れる前に異常を見つけ,つぶすことでネットワーク品質を安定的に保てるようにしているようです。

ベンダーからの情報が有効

 最後に紹介するのは,ネットワークに関する情報源に関する調査結果です。ネットワーク技術は日進月歩。とくにネットワーク管理者は,日々登場する新しい技術やセキュリティにからんだ情報をいち早く入手することが求められます。そうしたネットワークに関する情報を何から収集しているのかを聞いた結果を見ていきましょう。この設問は,ネットワークのユーザー,管理者にかかわらず,すべての立場の方に複数回答で聞きました。

 今では一般の人々もインターネットをフル活用している時代なので,ネットワークに関する情報源として「インターネット」を挙げた回答者が95.6%に達したのは当然のことでしょう。また,今回の調査は本誌や日経BP社のWebサイトのメール・マガジンなどを通じて告知したので,日経BP社をはじめとした出版社から出ている「雑誌」を参考にしている人が54.7%と過半数を超えるのも不思議はありません。

 むしろここで注目すべきは「ベンダーからの情報」が35.9%とかなり多かったことです(図2)。「日頃からベンダーの営業担当者と会話をして情報交換をする」という人はユーザーにもネットワーク管理者にもいました。この記事を読んでいる人の中にも,ベンダーの人からさまざまな情報を得ている人は多いでしょう。特に注意が必要なウイルスや新しいネットワーク機器の情報などはベンダーの担当者との雑談の中から多く得られるようです。

図2●ネットワークに関する情報を収集する情報源(複数回答)
図2●ネットワークに関する情報を収集する情報源(複数回答)
ベンダーからの情報と答えた人が35.9%に達した。ベンダーとの日頃のコミュニケーションが有力な情報源になっている。

 また,自由回答欄を見ていると,ネットワークに関する情報源の違いで,ネットワーク・トラブルの対応に差が出るという話を見つけました。「ベンダーの担当者と情報交換をしてコミュニケーションを密にしておいたことが,いざトラブルが発生したときにも功を奏した」というのです。普段から気軽に相談できる関係ができていたために,ネットワークの異常に気付いたときにすぐ連絡し,速やかに対処してもらえたといいます。単に情報を集めるだけでなく,信頼関係を構築するためにもベンダーの担当者とのコミュニケーションは必要と言えます。

◇       ◇       ◇

 これまで5回に渡り,アンケートの集計結果を基に,ネットワーク管理者がトラブルに見舞われたとき,どのような行動が役に立つのか,日常的にどのようにネットワークを運用・管理しているのかを見てきました。中には「なるほど」と思ったこともあるでしょう。日ごろ,ネットワーク管理者同士が情報を交換する機会は少ないかもしれませんが,この記事を通して自分と同じような管理者の実態を知ることで,ネットワークを運用・管理する際の参考にしてください。