今回はJANOG全体の活動について紹介したいと思います。

 JANOGというと皆さんはおそらく「JANOGミーティング」を想像されるでしょう。多くのメディアで取り上げられるJANOGは,JANOGミーティングを中心に扱われますので無理もありません。そこで,少し「JANOGミーティング」から離れて,JANOG全体をざっと見回してみたいと思います。

 JANOGはメーリングリストとミーティングの二つが活動の軸になっています。細かく見ると他にも活動があるので,ちょっとリストアップしてみましょう。
 1. JANOGミーティング
 2. JANOGメーリングリスト
 3. ワーキング・グループ
 4. 文書管理
 5. 運用者間コーディネーション

 3から5については,ほとんどの方がご存知ないかもしれません。基本的にすべての活動の基本となるのがメーリングリストで,すべての活動はそこから派生しているといってもいいでしょう。特に5の運用者間コーディネーションは,本来メーリングリストを使って,インターネット上で起こっている問題などを共有して解決を試みるというものです。これは,すべての基本になっているといっても過言ではないでしょう。これらの細かい活動が結びついてJANOGというコミュニティを形成しているのです。

ネットワーク運用者の問題意識が議論のモト

 少し図を描いて説明してみましょう。すでにお話したとおり,すべての基本はメーリングリストです。メーリングリストでは,実に多くの話題が議論されます。これらの議論の中には,多くの問題が含まれています。例えば,多くのネットワークで協調して運用しなくてはインターネット全体としてうまくいかないような問題に関する議論や,すでに起こっている問題をどのように解決するかを議論するような話題です。

図 JANOGの活動の構成 JANOGの活動はメーリングリストでの議論を中心に,これら五つから成り立っています。

 具体的な例として,最近JANOGとして文書化した「xSP のルータにおいて設定を推奨するフィルタの項目について」(JC1000)を紹介しましょう。ISPではルーターにさまざまな設定をして自分のネットワークを保護しています。一方で,あるネットワークは,自分のネットワークから不正なパケットや経路を外部に送ったりしないようにするために,適切なフィルタを設定しています。すべてのネットワークでこのような経路やパケットに対する適切なフィルタをしていれば多くの問題は起こらないのですが,これがなされていないケースが多いのです。このような問題についてJANOGコミュニティの数名が問題を提起しました。

 この問題についてJANOGのメーリングリストで議論した結果,もっと集中した議論が必要だということになりました。ここで,二つの選択肢がありました。一つは,JANOGのワーキング・グループを作りそこで議論する。もう一つは個別に議論するグループを形成して,集中議論する。JANOGのワーキング・グループは,そもそもJANOG全体ではなく,少しメンバーを絞って集中的に議論する場合,もしくは継続的に議論する場合に利用してもらうために作られたものなので,今回のケースでも利用可能でした。しかし,この問題については,もう少し広い視野で考えたほうがよいということもあり,個別に議論する道を選びました。これが,Inter-domain Routing Security Workshopです。

 ワークショップでは,今回の問題について数回のミーティングの機会を設けて集中的に議論しました。詳しくはホームページに議事録があるのでご覧ください。議論の結果,多くのISPで最低限必要な設定はまとめておくべきだろうということになりました。そして,文書をまとめてJANOGに議論を戻すことにしました。

運営規則と技術文書から成るJANOG Comment

 こうしてできたのが,JANOG Commentのドラフト文書です。

 JANOG Commentには,JANOGの運営に関連する規定やアナウンスなどをまとめた「運営系文書」と,インターネットの運用上まとめた「技術文書」があります。今回は,技術文書のカテゴリで採択することを目的に文書をまとめました。

 ドラフト文書は,一旦JANOGメーリングリストでアナウンスされ,議論され,JANOGミーティングで解説することによって一般的な議論へと展開されました。その後,この文書は寄せられたコメントを反映させてからJANOG Commentとして採択されました。

 図と照らし合わせて流れを見ていただくとわかりますが,メーリングリストでの議論,今回は個別でしたが必要に応じて次にワーキング・グループでの議論,そしてJANOGミーティングでの議論,その結果をまとめたJANOG Commentとしての文書管理とすべての活動がつながるようにJANOGの個々の活動は設計されています。

 紹介したJANOGの活動の流れは,JANOGにかかわった多くのメンバーの方々の意見を集約して出来上がった流れで,これからも変化していくものでしょう。現時点の活動の流れは,JANOGのような運用者コミュニティのひとつの形だと私は思っています。

問題解決の一つの手段として活用してみては?

 ネットワークの運用をしている方々は日々の業務で手一杯という方も多く見られます。ですが,少し時間を作って,このような活動を上手に利用してみるのはいかがでしょう? インターネットの協調運用という側面で,今抱えている問題を解決できれば,私としてもうれしい限りです。

 多くの人に,「それでもJANOGはハードルが高すぎる」とよく言われます。さすがに今のJANOGは4000名近いメンバーがいて,そのメーリングリストで発言するのは,躊躇してしまうかもしれません。私もメーリングリストにはたくさん投稿していますが,間違った内容を発言することも多く,パソコンの前で赤面したりすることもしばしばです。もし,JANOGの活動に少しでも興味があって,活動に参加したいなぁと思ったなら,JANOGミーティングでよく見る運営委員やスタッフに気軽に相談してみてはいかがでしょうか。明るい未来が待っているかも知れません。