日経コミュニケーションは総務省と共同で,2004年から「企業ネットワークの実態調査」を毎年行っている。このほど,最新データとなる2006年調査の集計が完了した。「主要拠点をつなぐ通信サービスには何を使っているのか」「FTTH(fiber to the home)やIP電話はどの程度企業ユーザーに普及しているのか」「業務での携帯電話/PHSの活用状況は」といった関心に応えられる数字が明らかになった。そこで本欄では,今回から5回にわたって企業ネットの最新トレンドを紹介していきたい。

 各回のテーマは,(1)企業ネットワークの背骨となる「WANサービス」,(2)企業ネットの足腰に相当する「アクセス回線」,(3)通信コストの削減手段として浸透している「IP電話」,(4)業務に機動力をもたらす携帯電話/PHSなどの「モバイル」,(5)対策が急務の「セキュリティ」とした。(1)のWANサービスでは,IP-VPNや広域イーサネット,インターネットVPNの新型WANの動向が中心となる。(2)のアクセス回線では,FTTHに代表される「光ブロードバンド」の躍進が目立つ。(3)のIP電話は先細り感が強まり,代わって直収電話(新型固定電話)の採用数が急増している。(4)のモバイルは,陰りが出始めたPHSと,期待ほどには伸びない無線LAN搭載携帯電話という構図が見えた。(5)のセキュリティでは,パソコンのセキュリティ情報を監視する「検疫ネットワーク」と,「シン・クライアント」にフォーカスした。

 なお今回の調査は2006年7月から8月にかけて実施した。上場企業など全国3836社のうち,1311社から回答が寄せられた。回収率にして34.2%。2004年の共同調査開始以来,3年連続して1300社超の母数を維持できている。

エントリーVPNが第4の選択肢として浮上

 WANサービスの利用実態に関する調査は,日経コミュニケーションが最も力を入れている分野である。どのWANサービスを利用するかは,企業のIT化と密接にからむからだ。

  図1-A 幹線系と支線系の主なWANサービスの利用率  (クリックすると画面を拡大)
  1-A 幹線系と支線系の主なWANサービスの利用率
  図1-B 2006年の企業ネットワークの潮流  (クリックすると画面を拡大)
  図1-B 2006年の企業ネットワークの潮流

 ここ3年間の推移を見ると,企業が使うWANサービスはIP-VPN,広域イーサネット,インターネットVPNで決まりの感がある。最新となる2006年の調査結果では,主要拠点同士やコンピュータ・センターを結ぶ「幹線系ネットワーク」と中小規模の拠点を接続する「支線系ネットワーク」の主力サービスとして, IP-VPN,広域イーサネット,インターネットVPNがトップ3を占めた(図1-A)。

 ただ,それぞれのサービスの傾向は対照的である。IP-VPNは幹線系,支線系ともに主力のサービスとして首位にランクされるが,その利用率は減少し続けている。代わって急伸しているのが,広域イーサネットとインターネットVPN。この結果,幹線系における2006年の利用率はIP-VPNが30.4%,広域イーサネットが25.5%,インターネットVPNが19.8%と急接近している。このペースが続けば,来年には主役交代の可能性がある。というのも,今後の採用を予定/検討するサービスでも,広域イーサネットの人気は上昇し,IP-VPNは下降しているからだ。

 支線系では昨年に主役交代が起こった。インターネットVPNの利用率が大きく伸び,減少傾向にあったIP-VPNを抜いた。この勢いは今年も続き,インターネットVPNの利用率は3.8ポイント増の33.8%,IP-VPNは4.1ポイント減の22.4%と,両者の差は拡大した。

 また2006年の調査では,新たな潮流が生まれていることも判明した。簡易版IP-VPNサービスの「エントリーVPN」が第4の選択肢として浮上したことだ(図1-B)。エントリーVPNには,NTT東西地域会社の「フレッツ・グループ(アクセス)」と「フレッツ・オフィス(および同ワイド)」,NTTコミュニケーションズの「Group-VPN」などがある。アクセス回線として東西NTTの「Bフレッツ」や「フレッツ・ADSL」が使えるため,従来のIP-VPNサービスに比べて低料金で利用できることが特徴だ。本調査では毎年,IP-VPNのサービス事業者別の利用率ランキングを集計しているが,フレッツ・グループは順位が昨年の5位から4位へとランクアップするほか,3位にわずか0.4ポイント差と詰め寄った。

 このように2006年の企業が使うWANサービスは,IP-VPN(エントリーVPN含む),広域イーサネット,インターネットVPNを中心に動いていることが改めて判明した。これら新型WANサービスが企業ネットに急浸透していく様子は,2004年から2006年にかけての利用率*1の推移にはっきりと示されている。この利用率と,2006年のサービス事業者別ランキングを,IP-VPN広域イーサネットインターネットVPNといったサービスごとにまとめたので,興味のある方は参照してほしい。

*1 ここで示す利用率は,「主力か否か」,「幹線か支線か」といった区別なく集計したデータであり,図1-Aで示した利用率とは異なる。図1-Aで示した利用率は,幹線系と支線系それぞれで主力のサービスを一つだけ選択してもらった結果を集計したものである。