図1 自動の音声案内で勧誘電話がかかってくる(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 自動の音声案内で勧誘電話がかかってくる(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 無料のIP電話を悪用して自動でかけている(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 無料のIP電話を悪用して自動でかけている(イラスト:なかがわ みさこ)
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 SPITとは,「spam over internet telephony」の略で,迷惑メール(スパム)のIP電話版という意味合いで使われる用語である。日本ではまだほとんどなじみがないが,迷惑メール同様,将来的に大きな問題になる可能性がある。


 インターネットの世界における“迷惑な行為”の代表例に迷惑メールがある。アダルト・サイトへの勧誘メールなどがどんどん送りつけられてきて,困っているユーザーは多いはずだ。迷惑メールがこれほどはびこってしまった理由は,電子メールの持ついくつかの特徴による。その特徴とは,(1)世界中の人が日常的に使っている,(2)ほとんどコストをかけずに大量のメッセージを送れる,(3)たいていの人が第三者からのメッセージ受信を拒否していない──の三つだ。迷惑メールの送信者は,何百万通ものメールをタダ同然でばら撒くことができ,これにほんの数人が引っかかるだけで十分収益を上げられる構造になっている。


 SPITが出てきた背景には,最近ではIP電話サービスも上記の三つの条件を徐々に満たしつつある点が挙げられる。インターネットを悪用し,不正に儲けたい事業者にとっては,迷惑メールと同様の“儲けの構図”をIP電話でも描けるようになってきたのである。


 では,SPITを被害者の立場から見ていく。


 SPITでは,まずユーザーのIP電話番号(050番号)あてに知らない誰かから電話がかかってくる。ユーザーがこの電話をとると,一般に「お得な情報があります。すぐにこの電話番号までお電話ください…」といった自動の音声メッセージが流れる(図1)。


 ユーザーが指定された番号に電話をかけると,例えばアダルト向けの出会い系サービスだったりする。ユーザーは,こうしてSPITの送り手によってまんまと有料のサービスに誘導されてしまうというわけだ。


 次は視点を変えて,送り手側からSPITのしくみを見る。


 SPITの送り手は,IP電話サービスで使う「050番号」の構造から,自分が無料で通話できる相手を探す。050番号は,「050」,「4桁の事業者識別番号」,「4桁のユーザー識別番号」を組み合わせた構造になっているので,先頭から7桁はプロバイダごとに決まっている。送り手は,自分が無料でIP電話をかけられるプロバイダの7桁に加え,残り4桁を適当に指定するだけで無料でSPITを発信できるわけだ(図2)。SPITの送り手は,こうした電話番号に自動発信し,電話がつながったあとに音声メッセージを流すしくみを用意すれば,簡単にSPITを仕掛けられるのである。


 日本国内では,プロバイダ側がSPITが広まる前に率先して契約規定(約款)を改正したことで,SPITの被害は拡大していない。ただし,新しい技術がSPITを進歩させる危険性は十分あるので,注意しておくべきだろう。