幸いにして私はさほどお金に困っていない。少なくとも自分ではそう思っている。だから、ポストに投函される消費者金融のチラシは、いつも決まってゴミ箱へ向かう。言わずもがな、マーケティング活動で重要なのは、ターゲットの属性や嗜好を正確に把握すること。これができれば、貴重な販促予算を自称中流の独身男に傾ける無駄もなくなるはずだ。

 ただリアルの世界は、あまりにも複雑である。地理的属性を示す「ジオグラフィック情報」や、職業や年齢・性別を示す「デモグラフィック情報」というマーケティング用語があるが、実際にこれらに基づいた販促は、とても容易なことではない。更に、欲求や嗜好、価値観を示す「サイコグラフィック情報」ともなると、困難はより明らかだ。

 ところが、ネットの世界では話が違う。ユーザーの基本的な行動は「クリック」や「閲覧」などに限定されており、しかもこれらの行動はログデータに反映される。またIPアドレスを調べれば、サイトへの接続元となる地域を割り出すことさえ可能だ。リアルに比べた際の限定性が、逆にマーケティングの可能性を大きく広げているのだ。そして今、特にSEM(検索エンジンマーケティング)の現場では、ターゲットに絞り込みをかける有効な手法が次々に生まれている。

 グーグルの提供する「アドワーズ広告」では、広告配信のターゲットとなる地域を、市区町村単位まで絞り込むことができる。2006年5月8日には米Yahoo!が広告配信システムの刷新を発表し、今後グーグル同様に地域属性に合わせた出稿が可能になる旨を明らかにしている。さらに、本格運用開始が同年5月3日にアナウンスされた米Microsoftの自社開発による検索連動型広告「adCenter」では、一歩進んで地域や性別、年齢やライフスタイルを考慮に入れた出稿ができるという。現在、「adCenter」は日本ではまだ運用が開始されていないが、いずれ日本でもサービスが開始される可能性は高い。こうした広告露出対象を絞り込む機能は、ネット広告の大きなメリットである効果測定のしやすさと併せ、企業のマーケティング活動にとって大きな武器になることだろう。

 また、検索キーワードに紐付いて表示される検索連動型広告では、もともとサイコグラフィック的なターゲティングができることが最大の利点であると言える。例えば、消費者金融の広告を露出させる対象を「消費者金融」や「ローン」といったキーワードで検索を行ったユーザーに絞り込むことができるので、従来の広告手法のように広告の無駄打ちを限りなく少なくすることが可能になるわけだ。

 おそらくこのようにジオグラフィック、デモグラフィック、サイコグラフィックという3つのフィルターを組み合わせ、能動的に広告の露出対象を限定できる機能というのは検索連動型広告以外には存在し得ないのではないだろうか。もちろん、顕在顧客のみに広告を絞り込み過ぎれば、潜在顧客へのリーチが減少し、結果的には事業の可能性を狭めることにもつながりかねない。ただし、それでも明らかに顧客層からかけ離れたユーザーに対するフィルター機能を持たない広告よりは、これまでさまざまな制約があり不可能とされてきた理想的なターゲットマーケティングに近づけるのではないか。


(アウンコンサルティング マーケティンググループ 梅澤俊雄)










 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。