KDDIとNTTドコモは7月下旬から8月上旬に相次いで,無線電話を使って企業の内線電話システムを構築する「モバイル・セントレックス」の新メニューを発表した。携帯電話事業者を変更しても同じ番号を継続利用できる「番号ポータビリティ」制度が始まる前に,法人向けサービスを充実させた格好だ。10月中にもボーダフォン(10月からソフトバンクモバイル)も法人向け新メニューを発表する。

 ある携帯電話販売代理店の幹部は「番号ポータビリティによって,法人向けの携帯電話市場は大きく動く」と予想する。法人一括契約による割引効果が大きいほか,個人ユーザーがネックと考えるメール・アドレスの変更について,法人はそれほど影響を受けないと考えられるからだ。

 そんな法人市場の行方を左右するのが,法人向けのモバイル・セントレックス。一気にサービスがそろうこの秋以降,各社で競争が激化する様相が見えてきた()。

表●秋以降にサービス・メニューが一気に増えるモバイル・セントレックス
表●秋以降にサービス・メニューが一気に増えるモバイル・セントレックスKDDIがNTTドコモの「PASSAGE DUPLE」対抗の「OFFICE FREEDOM」を始めた一方,ドコモはKDDIの「OFFICE WISE」タイプの「OFFICEED」を用意。法人市場を巡る全面対決の様相が見えている。
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KDDIは最終兵器「音声定額」を投入

 先手を打ったのはKDDI。「NTTドコモのPASSAGE DUPLEを意識」(KDDI幹部)し,ドコモ同様に無線LAN/携帯電話のデュアル端末を使う「OFFICE FREEDOM」を7月に開始した。さらに月額約1万円の固定料を支払うと,登録したau端末間の通話が話し放題となる「ビジネス通話定額」を11月に始めることも発表した。

 音声定額型サービスは,ボーダフォンが月額5200円で,ウィルコムが月額2千円台で提供中。特定の端末や設備を必要としないため,ユーザー企業には導入の敷居が低い。しかし事業者にとってはネットワークに過大な負荷がかかるデメリットがある。NTTドコモが音声定額サービスの提供を躊躇(ちゅうちょ)するなか,KDDIは一足先に「禁断の果実」をかじった格好だ。

ドコモは基地局型投入で応戦

 一方のNTTドコモは,8月上旬にモバイル・セントレックスを2タイプ同時に発表した。KDDIのOFFICE WISEと同様に携帯電話基地局設備を利用する「OFFICEED」と,PASSAGE DUPLEの応用版と言える「ビジネスmopera IPセントレックス」だ。

 NTTドコモのプロダクト&サービス本部の徳広清志執行役員ユビキタスサービス部長は,「番号ポータビリティもきっかけの一つだが,KDDIなど他社の動向を意識した結果」と,サービス投入の理由を説明する。2007年秋にドコモがPHSサービスを終了することも大きな理由と言う。「PHSの代わりとなる法人向けサービスをPASSAGE DUPLE以外にも用意する必要があった」(徳広執行役員)。

 OFFICEEDは,FOMA用の基地局設備「IMCS」(inbuilding mobile communication system)を活用し,登録した端末間の通話は1台当たり800円(50回線以上の場合)で使い放題になる。しかも専用端末ではなく市販のFOMA端末を利用できる。

 NTTドコモ ソリューションビジネス部の中村充ネットワークサービス担当課長は「OFFICEEDは,OFFICE WISEよりも有利」と自信を見せる。ビル内のFOMA基地局設備は,2006年6月で約7000拠点を数える。基地局を設置済みのビルに営業をかけるため「一から設備を導入するOFFICE WISEよりもアドバンテージがある」(中村担当課長)というわけだ。

PBX機能をドコモがユーザーに提供

 もう一方のビジネスmopera IPセントレックスは,無線LAN/FOMAのデュアル端末「N900iL」を利用。ドコモがIP-PBX機能をネットワーク経由で提供する。IP-PBXをユーザー企業が用意するPASSAGE DUPLEとは異なり,初期コストを抑えられるようにして市場の拡大を狙う。

 ビジネスmopera IPセントレックスでは,「050」番号を使ったIP電話サービスもセットになっている。ドコモの携帯電話に発信した場合は,他のIP電話サービスから発信するよりも割安になるという利点がある。

 ビジネスmopera IPセントレックスは,ドコモが単独で提供する。PBXベンダーなどと組んで導入するPASSAGE DUPLEとは異なる。徳広執行役員は「現在は一つの端末に二つの番号を付けてドコモなりの携帯/固定電話の融合サービスを実現している。将来的にはそれを一つの番号とし,さらなる利便性を追求したい」と語る。

ソフトバンクの参入で激戦に

 新生ソフトバンクモバイルも,10月中にもノキア製の無線LAN/3Gのデュアル端末を使った法人向け内線ソリューションなどを発表する予定。登場2年を経て,モバイル・セントレックスは各社が同じタイプのサービスで競う,全面対決へと舞台を移しつつある。

  【修正履歴】当初,ソフトバンクモバイルが法人向けメニューを発表するのは9月末と予測していたため,記事中の第1段落と最終段落,および表中の*1に「9月末には...発表する」と記述していましたが,発表されなかったため,「10月中にも...発表する」に修正しました。(2006年9月29日)