先日,米司法省のある高官が,Windows VistaやiTunesといった人気テクノロジに干渉するなと,他国政府に警告を発した。米司法省の反トラスト副局長であるThomas Barnett氏は,米国以外の政府によるこれらテクノロジに足かせをかけようとする企て(彼はこれを後知恵の規制と呼ぶ)は革新を阻むものであり,「(彼らが)助けていると主張する消費者の利益を脅かすだろう」と述べた。

 Barnett氏は「とりわけAppleは,デジタル音楽という成長市場を生み出したことについて,攻撃ではなく,称賛されるべきである」と続ける。彼はさらに,Windows Vistaのセキュリティ機能に対するEU(ヨーロッパ連合)の苦情は奇妙である,と指摘した。この件に関して彼は,反トラスト当局である欧州委員会の委員Neelie Kroes氏と話し合いの場を持つことを要請した。筆者はこの話し合いの場で,刺激的な金網デスマッチが見られることを期待している。なぜなら,EUは暴走状態にあるからだ。

EUがMicrosoftとのハッピーエンドの可能性を否定

 EUの反トラスト担当委員であるNeelie Kroes氏は先週,2004年以来長引いている独占禁止法違反の案件に関して,EUがMicrosoftと「友好的な和解」に達することはない,と語った。MicrosoftがEUの決定を全く尊重してこなかった,というのがその理由だ。Kroes氏が語ったところによると,今年Microsoftが毎日罰金を徴収されているのは,法廷での敗北から2年もたつというのに,Microsoftが引き伸ばし作戦を使って,欧州の法律に従うことを拒否しているからだそうだ。

EUの次のターゲットは「Microsoft Office」

 欧州の反トラスト委員会は,MicrosoftがWindows XPで犯した罪を理由に同社に罰を与え,Windows Vistaについても同様の措置を検討しているが,これだけでは満足していないようである。というのもEUは今,Microsoft Officeについても同様の措置を検討しているからだ。

 先述したNeelie Kroes氏が先週語ったところによると,ある競合他社(明示されていない)からの苦情に基づいて,EC(欧州委員会)は2007年に登場予定の「Office 2007」について調査を開始しようとしているそうだ。苦情を申し立てた競合他社として真っ先に思い浮かぶのは,Office 2007に無料でPDF保存機能が追加されることを非難した米Adobe Systemsだろう。非難されたMicrosoftは同機能をOffice 2007から取り除いて,Webダウンロードとしてリリースすると発表している。

MS対EU,Windows Vistaに関して正しいのはどちら?

 MicrosoftとEUは,様々な係争を抱えている。まず,今もなお続いているの2004年に始まった独禁法違反訴訟の件がある。はっきり言って,この件に対するMicrosoftのこれまでの態度は褒められるべきものではない。今後起きるであろうOfficeに関する問題については,現時点では何も分からない。

 しかし,Windows Vistaのセキュリティ機能に対するEUの苦情は別だ。筆者はEUの論拠が全く理解できない。多くの人が,Windows Vistaのセキュリティは今よりも強化されるべきだ,と主張しているる

 Windows自身のセキュリティを強化することと,追加のセキュリティ・ソフトウエアである「Windows Live OneCare」とでは,全く事情が異なる。筆者はWindows Live OneCareを気に入っており,実際に使っている。それでも,Windows Live OneCareの存在の方が,Windows Vista自身のセキュリティ強化よりも,競争政策上の問題であると考えている。

 Webブラウザやメディア・プレーヤ,インスタント・メッセンジャーをOSに組み込むことに関して,反対意見が出てくるのは当然だ。しかし,製品のコアな部分のセキュリティ強化については,反対意見は出てこないだろう。これは最も重要なことだからである。EUがWindows Live OneCareを調査するのならまだ話は分かる。しかしWindows Vistaそのものに対しては,姿勢を改めなければならない。もうそろそろ,長期にわたるWindowsの欠陥に乗じて甘い汁を吸ってきたセキュリティ・ソフトウエア・メーカーのニーズよりも,消費者のニーズの方を優先させていい時期だ。