前回は,偽装請負について「形式的には請負を装っているが,その実質がないもの」と説明しました。具体的にどのような場合が実質的に請負となり,偽装請負と違うと判断されるのでしょうか。

 その区別については,「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(注1)という形で,基準が定められています。

 これに基づいて,請負と見なされるための要件を改めて整理すると,以下のようになります。

1.労務管理上の独立性

 (1)労務管理上の独立性
 (2)労働時間管理上の独立性
 (3)秩序の維持,確保,人事管理上の独立性

2.事業経営上の独立性

 (1)経理上の独立性
 (2)法律上の独立性
 (3)業務上の独立性

 「1.労務管理上の独立性」とは,「受託者が雇用する労働者の労働力を自ら直接利用」しているかが,そのポイントとなります。すなわち,前回説明したように,注文者(ユーザー)ではなく,受託者である請負企業が労働者を指揮命令することが必要です。

 作業現場では,請負企業の責任者が,作業現場での人数,配置,変更などを指示して,スケジュールを作成・調整し,請負企業は仕様書等に基づき,自らの判断で業務を処理していく必要があるわけです(労務管理上の独立性)。また,請負企業は自社の労働者の就業時間,休息時間を把握し,残業や休日出勤を指示する,あるいは欠勤等の勤怠管理を行うことが求められます(労働時間管理上の独立性)。

 また請負企業は,自ら業務遂行上の規則を制定・指示する必要があります。使用者・雇用主の義務として,労働基準法,労働者災害補償保険法,雇用保険法,健康保険法等を遵守しなければなりません。さらに,請負企業の労働者の要員の指名,配置等の決定も請負企業が行う必要があります。ユーザー企業が要員を直接面接するなどの方法で,請負企業からの労働者を選定することは許されません(秩序の維持,確保,人事管理上の独立性)。

高度な技術的専門性なければ偽装請負の可能性が高くなる

 続く「2.事業経営上の独立性」とは,請け負った業務を請負企業が自己の業務として独立して処理することを言います。

 具体的には,請負企業が自ら資金調達を行っていることが必要です(経理上の独立性)。また,業務の処理について請負企業側に契約違反などがあった場合に,ユーザー企業が法的責任を追及できるなど,請負企業が法律上の義務を負担していることも必要です(法律上の独立性)。

 「業務上の独立性」という要件は,少々わかりにくいかも知れません。ソフトウエア開発等の請負型(注2)の契約であれば,契約書等に完成すべき仕事の内容(仕様等),システム運用管理であれば行うべき業務処理内容が明記されており,また,処理すべき業務を請負企業の有する高度な技術・専門性により処理していることが必要になります。請負企業が高度な技術的専門性を持たない場合,請負企業は単に労働者の肉体的な労働力を提供しているだけということになり,偽装請負の可能性が高くなります。なお,高度な技術的専門性がなくとも,機材・設備などを自ら調達するか,もしくは注文者からそれらの機材・設備を有償で調達して業務を実行している場合には,業務上の独立性が認められる余地があります。

 なお,ここまでは,ユーザー企業と請負企業の2社間での区別の基準を見てきました。しかし,システム開発関係では,下請けが階層的に連鎖している場合も少なくありません。

ユーザー企業→元請企業→下請企業

という形でソフトウエアの開発業務を委託し,元請企業,下請企業がユーザー企業の現場で開発作業を行うような場合,これまで述べた問題は,ユーザー企業と下請企業,元請企業と下請企業との間で,それぞれ当てはまります。

 ユーザー企業は,元請企業の頭越しに下請企業の労働者に対して業務の技術指導や指揮命令を行ってはなりません。また,下請企業の労働者を選定したり,勤怠管理等に関わることもできません。ユーザー企業と下請企業には直接の契約関係はなく,あくまでも元請企業が下請企業の責任者を通じて業務上の指示等を行う必要があります。事業経営上の独立性も同じことです。当然ながら,元請企業と下請企業の間で契約書が交わされている必要がありますし,下請企業にも高度な技術的専門性が要求されることになります。

 今回は,偽装請負とそうでない請負の区別の基準について解説をしました。次回は,偽装請負をどのように解消すればよいのかについて検討したいと思います

(注1)昭和61年労働省告示37号,より具体的な区分の基準については「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準の具体化、明確化についての考え方」参照
(注2)プログラム等の「もの」の完成を目的としている場合には通常,請負契約であると考えられています


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。