前回は,「ふりかえり」の概要とその効果について解説した。具体的なふりかえりの内容やファシリテーションの仕方については,前回紹介した「プロジェクトファシリテーション 実践編 ふりかえりガイド」に解説がある。詳しくは,そちらを参照してほしい。今回は,実際にTRICHORDチームで毎週実施しているふりかえりを題材に,ふりかえりの進め方と工夫を紹介する。

 TRICHORDチームは,1週間を1イテレーションとして,イテレーションの最終日の午前中(金曜)にふりかえりを実施している。毎週実施しているので,プロジェクトが始まってかれこれ数十回行っていることになる。2006年5月から,内部で行ってきたふりかえりの内容をブログで公開している。ほかのプロジェクトのふりかえりの結果を見る機会はなかなかないと思うので,参考にしてほしい。

 TRICHORDチームのふりかえりは,KPTと呼ぶスタイルを用いている。これはKeep(よかったこと,続けたいこと),Problem(うまくいかなかったこと,問題),Try(次に試したいこと)の3つをチームで共有するという手法だ。

1回のふりかえりは1時間以内

 ふりかえりにかける時間は,短めにするのがコツだ。最近は,目安として45分のタイマーを使って実施し,延長しても1時間程度に収めるように心がけている。ふりかえりはあまり長い時間を掛けても疲れてしまうし,内容も煮つまってしまうことが多い。扱う問題の数が多ければ多いほどその傾向が強くなる。

 TRICHORDチームはイテレーション単位(1週間)でふりかえりを実施しているため,ふりかえりの対象期間は1週間となる。扱う内容がそれほど多くないので,この程度の時間で済んでいる。もし1カ月ぶんのふりかえりをするとなると,扱う出来事が多すぎて,1時間ではとても対応しきれなくなるだろう。

 これから分かるように,ふりかえりは短い時間間隔で実施したほうがよい。そのほうが,扱う出来事も少なくて済み,コンパクトに実施できる。会議疲れが起きることもなく,フレッシュな頭で効率よく行える。

ホワイトボードがある場所で実施する

 TRICHORDチームでは,必ずホワイトボードの前でふりかえりを実施している。チームによっては付せんを使ってふりかえりをするケースもあるが,TRICHORDチームはイラストやマインドマップを描く都合上,付せんではなくホワイトボードが必要になるのだ。現在は180センチ×90センチの持ち運び可能なホワイトボードを2枚使用している。

 以前のオフィスでは畳の部屋にホワイトボードが設置してあり,そこでふりかえりを行っていた。畳の部屋でのふりかえりには,靴を脱いでリラックスした気分で実施できるというメリットがある。筆者は会議室の肩肘張った状態よりも,畳でリラックスしたほうが,より良いふりかえりができるのではないかと考えている。

ふりかえりの進行手順

 ふりかえりは以下の手順で進める。

(1)ファシリテータを決めて前回のTryをチェック
 最初にふりかえりをファシリテートするファシリテータを決める。TRICHORDチームではローテーションで回しており,全員が既に何度も担当した計算だ。以降の内容はファシリテータが進行を務める。

 ファシリテータを決めたら,前回のふりかえりの結果を見ながら,進ちょくをチェックしていく。主に前回のTry項目を1つずつ見ながら,実施できたかどうか,できなければ何が原因で実施できていないのかを確認する。一通り内容をチェックしたらこのセッションは終了になる。

(2)マインドマップを描いて何があったかを思い出す
 次に,ふりかえりの対象となる期間に何があったかをチーム全員で思い出してみる。思い出す方法としては,1週間の出来事をマインドマップで発散してみるのがよい(図1)。このセッションは,KPTに基づくふりかえりではあまり行われない。TRICHORDチームでも,1カ月ほど前に試しにやってみようと始めたセッションである。


図1 1週間の出来事を表現したマインドマップ
[画像のクリックで拡大表示]

 ちなみに,このふりかえりにマインドマップを使うというアイディアも,TRICHORDチームのこれまでのふりかえりから生まれたものである。マインドマップの内容は「お昼がおいしかった」といった開発に関係ない,ささいなことから,開発の課題まで,とにかく出来事を発散することに専念する。

 マインドマップは,全員がホワイトボードに描くグループ・マインドマップにするのがポイントだ。このマインドマップが完成すると,1週間のチームの出来事をあらかた表現できたことになる。ある程度(時間にして5分間ほど)発散できたら,発散フェーズは終了である。

(3)Keep,Problem,Tryにまとめる
 1週間ぶんの出来事を発散した後は,KPTの形式に整えていく。これは発散後の収束に相当する作業だ。具体的には,ホワイトボードをKeep,Problem,Tryの3つの区画に区切り,先ほどの出来事グループ・マインドマップを基に,KeepとProblemに項目を転記していけばよい(図2)。マインドマップの項目をそのまま書き写す必要はないが,マインドマップに出た項目でKeepとProblemに分類できるものはすべて書く。またこの時点でTry項目があれば,随時記入していく。


図2 KPTの形式でまとめたふりかえり
[画像のクリックで拡大表示]

 KPTへの記入も,全員でワイワイ行うのがポイントだ。TRICHORDチームでは,ほかの人が書いた項目に同意する場合に,その横に正の字を書くことにしている。

 一通り書き終った後は,ファシリテータが中心となって一つひとつの項目を見ていき,書いた本人に説明してもらう。Keepの場合は全員でその項目について「良かった,続けたい」という認識を共有し合う。良いと思った意見に対しては「うなずき」や「いいね」といった同意の意思表示をしっかり行うようにしている。

 Problemの場合,すぐに解決しそうなものについてはその場でTryを考えて挙げていく。ある程度時間をかける必要があるProblemについては,とりあえず後回しにする。

 すべてのKeepとProblemについて一通り見た後は,Try項目の挙がっていないProblemに着目し,改めてTryを考える。Try項目はProblemに対応するものだけでなく,新たに試してみたい項目もどんどん挙げてみるのがよい。現状に満足するのではなく,常に新しいことにTryしていく姿勢が重要だと筆者は考える。

(4)クロージング
 一通りTry項目が出そろったら,ふりかえりは終了となる。最後にファシリテータがTry項目をざっと確認してから,全員に対して「今週のふりかえりを終了します。お疲れ様でした」とあいさつをして終了する。TRICHORDチームはふりかえりの結果をブログに公開しているため,必ずデジカメで写真を撮っておく。この写真は共有サーバーに保管しておき,ブログに投稿するほか,印刷して壁に張ったり,チームのメンバーが雑誌の記事を書くための資料として使ったりしている。

分析指向より解決指向

 TIRHOCRDチームのふりかえりで注意しているのは,あまり原因を深追いしないことだ。これは言い換えると,分析志向ではなく,解決志向のアプローチをとるということである。Problemに挙がる項目は,大抵は現象に過ぎず,その裏に根本的な原因が潜んでいることが多い。そしてその原因は非常に複雑に絡みあっており,簡単には見えてこないケースもある。

 すべてのProblemに対して分析志向のアプローチをとると,原因追求に多くの時間を費やしてしまいがちである。こうなると45分という時間ではとてもふりかえりを終わらせることができない。Tryを見出すために深く原因分析をすることはあるが,基本は時間をかけずに解決策を考えるように意識している。

 もちろん,単に早く終らせるために解決志向にしているわけではない。あくまで「アクション主導」で問題に対応しようとする姿勢の現れだ。「分析」による原因究明よりも,「解決策」による行動とそのフィードバックに重きを置く振る舞いと考えてもらうとよいだろう。

 まとめると,TRICHORDチームにおけるふりかえりのポイントは以下のようになる。

  • ふりかえりの最初に前回のTry項目をチェックする
  • セッションは時間を決めて短時間(1時間以内)で行う
  • マインドマップで出来事を洗い出す
  • 分析志向ではなく解決志向のアプローチをとる
  • ふりかえりの結果を必ず写真に撮っておく

 前回も指摘したように,問題ばかりの反省会やお通夜のような状況にならないように,自分たちの過去をふりかえりたい。良かったことは素直に褒め,問題は真剣に受け止め,正直にかつ着実に,ふりかえりを定期的に行う。そして,一歩一歩改善の階段を登り,チームを成長させていく---それが何より大切なことであると筆者は考えている。

懸田 剛

チェンジビジョンでプロジェクトの見える化ツール「TRICHORD(トライコード)」の開発を担当。最近,ハックという言葉よりも“工夫”という素晴らしい日本語があることを再認識した。工夫の積み重ねが“功夫”になる。個人サイトはhttp://giantech.jp/blog