光導波路を組み合わせることで,特定の光学特性を基板上に実現する「PLC」(平面光回路)。小型化が可能で信頼性が高いという特徴があります。今回は大規模な光スイッチや波長合分波器など,光通信分野におけるPLCの応用例を紹介します。

 電気と同じように光も処理回路の集積度が高まっています。その基本技術となるのが,シリコンや石英基板上で光配線を可能にする光導波路*です。フォト・リソグラフィやドライ・エッチングなどLSIに用いられる微細加工技術を使い,周囲より屈折率の高いコアと呼ばれる部分を基板上に作り出すことで,光を伝送しています。

 この光導波路を組み合わせて,特定の光学特性を持たせた部品が「PLC(planar lightwave circuit,平面光回路)」です。PLCは,小型化が可能で信頼性も高いため,光ネットワークの基幹部品として,さまざまな用途に利用されています。

干渉計を128個使ったマトリクス・スイッチ

 PLCの応用例として,8×8マトリクス・スイッチを紹介します(図1)。これは,106ミリメートル×15ミリメートルの小さな基板上に,任意の8入力光を任意の8出力につなぐ機能を実現した部品です。機械式のスイッチと比較して駆動部が無いため信頼性が極めて高く,制御が容易な点も特徴と言えます。

図1 マッハツェンダー干渉計を使った8×8マトリクス・スイッチ
マッハツェンダー干渉計はヒーターのオン/オフによって光スイッチとして動作する。この図はマッハツェンダー干渉計を128個接続したPLC(planar lightwave circuit)型の8×8マトリクス・スイッチ。写真は実際に作成したチップ。
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 8×8マトリクス・スイッチの基本となるのがマッハツェンダー干渉計(MZI:Mach-Zehnder interferometer)です。これは光の干渉を利用した素子であり,2入力,2出力の光スイッチとして動作します。

 MZIでは,一つの入力光を2分岐し,再び合流させることで光を干渉させます(図1右上)。2分岐した片方の導波路には薄膜ヒーターがあり,そこに電流を流すことで導波路の温度が変わります。

 MZIへの電流をオンにした時とオフにした時では光の伝搬速度が変わり,分岐光に位相差が生じます。この位相差に応じて合流時の光の干渉度合が変化して,出力ポートを切り替える仕組みです。

 MZIの大きさは,縦が数ミリメートル,幅は0.2ミリメートル程度と小型です。8×8マトリクス・スイッチはMZIを128個用いています。

ROADM用波長選択スイッチにも応用

 PLCのもう一つの応用例として,アレイ導波路(AWG:arrayed waveguide grating)型回折格子を用いた波長合分波器を紹介します(図2上)。AWG型回折格子は,長さの異なる複数の導波路群を使って,波長ごとに光を取り出す分光機能を持たせた光回路です。

図2 AWG波長合分波器を使ったROADM用波長選択スイッチ
AWG波長合分波器は長さの異なる多数の導波路で構成。回折格子と同様の分光機能を持ち,入力した波長多重光を波長ごとに分離して出力できる。これを使ったROADMスイッチも実用化されている。

 AWG型回折格子は,ミクロン長単位の周期で凸凹が並ぶ回折格子よりも分解能が高く,現在商用化されている高密度WDM(波長分割多重)システムの波長多重光の合分波器に用いられています。この合分波器は,波長間隔が0.8ナノメートルの波長多重光を1度に40波長分波することも可能です。

 AWG型回折格子を用いた波長合分波器と,光スイッチを組み合わせることで,ROADM*(reconfigurable optical add/drop multiplexer)システムに必要な波長選択スイッチも実現可能です(図2下)。

 波長多重光をAWGで分波し,必要な波長のみを光スイッチを使って取り出して,トランスポンダに接続。その他の波長光は素通りさせて,もう一つのAWGで合波し,波長選択機能を実現します。

 現在は光スイッチとAWGを光ファイバで接続して,全体を一つのケースに収めたデバイスが実用化されていますが,すべてを一つのPLCチップに集積する研究開発も進んでいます。

 次回は,用途に合った波長のレーザー光を出力できる可変波長レーザーを紹介します。


萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長
山林 由明 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長
高橋 浩 NTTフォトニクス研究所 光波回路設計研究グループリーダー