アイ・ティ・アール(ITR) シニア・アナリスト 金谷 敏尊氏 伊藤 芳之 氏

IDC Japan ITスペンディング リサーチアナリスト
国内IT投資動向の調査・分析を担当。製品別、産業分野別、企業規模別にIT投資規模の実績および予測を提供している。

 現在、日本経済は変革期にある。「失われた10年」からようやく脱しつつある。7月に発表された政府の年次経済財政報告では、債務・設備・雇用の「3つの過剰」が解消されたとうたっている。これは、企業部門の長期低迷の構造的な原因が取り払われたことを意味する。

 実際、企業業績は絶好調といっていい。主要企業は過去最高の決算をたたき出している。それに伴い、投資マインドも大幅に向上しつつある。大型の設備投資に乗り出す企業が増え、そのための資金需要も増している。人材確保にも積極的であり、雇用情勢も大幅に改善している。主要企業が、リストラという後ろ向きの戦略から、「攻めの経営」に転じたのは間違いない。今年中にはデフレも解消すると見込まれる。日本経済は健全性を取り戻している。

 だが、IT投資の伸びには、それほどの力強さが感じられない。IDCが、2005年第2四半期時点でまとめた国内IT投資額は、2005年で11兆5393億円、対前年比で2.6%の成長にとどまる。2006年には、成長率が1.2%へ減速すると予測している。

 なぜなのか。様々な理由が考えられるが、変化したユーザーニーズに応えられないベンダーの体質に、原因の1つを求めることができる。IT投資を実施する企業ユーザーは、失われた10年を通じて大きく変わった。変革のカバレッジは、企業理念やコアコンピタンス、組織形態、人材など、会社全体のあり方に及んでいる。血のにじむような努力を経て、こうした変革に成功した企業だけが、好業績を達成しているのである。

 厳しい時代を経て生まれ変わった企業群は、IT投資に対しても考え方を改めている。年間のIT予算枠を消化するだけという投資姿勢ではなく、ROI(投資対効果)を見極め、戦略的に重要な分野に傾斜配分している。IT投資の目的も高度化している。事業や組織のグローバル化、戦略的提携やM&Aを伴うバリューチェーンの再構築、顧客接点の充実による競争力の強化、コンプライアンス対応などである。とりわけ、従来の業種や業態、企業、組織といった枠組みを超えたバリューチェーンの再構築が盛んになっている。その一方で、変化する企業経営を取り巻くリスクを管理するためのコーポレートガバナンスも重要になってきている。

 このようなユーザーに比べると、多くのベンダーの体質は、あまりにも旧態依然としてはいないだろうか。多段階取引構造を温存し、レイバーベースのビジネスモデルから抜け出せていない。従来型の既存業務プロセスをシステムに置き換えるだけのIT化は急速にコモディティ化しているにもかかわらず、それに依存せざるを得ない構造がある。変革志向のユーザーにしてみれば、旧態依然のベンダーとの取引は、それ自体が「旧弊」と見えてもおかしくはない。となると、ITはリストラの対象となるしかない。案件の小口化や単価低落の背景には、こうした動きがあるのではないだろうか。

 新たなIT化ニーズにキャッチアップするには、サービスメニューとしてソリューションパッケージを揃えるだけではなく、ベンダー自身のビジネスを変革しなくてはならないと考える。ベンダーは、生まれ変わった日本企業の攻めの経営を支えるパートナーとなるために、どういった機能が必要なのか、改めて問い直すべきである。