マッキンゼーアンドカンパニー アソシエイト プリンシパル 萩平 和巳 氏 萩平 和巳 氏

マッキンゼーアンドカンパニー アソシエイト プリンシパル
商社、IT企業を経て入社。IT戦略やITガバナンスの策定などを支援すると共に、ITベンダーに対してもコンサルティングを行っている。

 「ITコストの可視化と削減を支援してほしい」―ITユーザーから、我々が頻繁にコンサルティング依頼を受けるテーマの1つだ。ITベンダー側も「TCO(所有総コスト)削減」を訴求点の1つとした提案を行うケースが多い。

 多くの企業で業績が回復してきた今日においても、ITベンダーは引き続きITコストの削減を前面に押し出していくべきなのだろうか。それとも、ユーザー企業の業績が回復してきた今こそ、ソリューション提案を推進し、新たな投資を促すべきなのだろうか。結論から言うと、いずれも正しいとも正しくないとも言える。

 ITバブル以降、経営層のIT投資を見る目は厳しい。景気が回復しつつある今も、そしてこの先も、それが緩むことはないだろう。今後も成長維持が見込まれるような企業は、業績の回復・向上に伴う積極投資を行いながらも、今までと同様、つまりITバブル後と同じような厳しい投資判断基準を保ち続けると思われる。

 こうした中、ITベンダーに求められるのは、投資判断の基準となるROI(投資対効果)を高めるような提案を行うことだ。つまり、 Investment(コスト)削減、もしくはReturn(業務効果)を改善するソリューションの提案を推進するのである。そして、いずれにおいても、システム起点の発想を捨て、ユーザー企業の経営や業務を起点に提案を行う必要がある。

 まず今回は、ITコストの削減について述べてみたい。ITコスト削減を実現するためには、ITシステム提供側(サプライサイド)の取り組みと、システム要求側(デマンドサイド)の取り組みが挙げられる。サプライサイドの取り組みとは、既存のシステムや機能を“おおむね是”として、TCOを削減することである。

 一方、デマンドサイドにおける取り組みとは、システムに対する要件や情報の流れ自体を再整理・最適化する取り組みのことである。例えば、部門間の業務情報フローを整理して散在するデータやデータベースを最適化する、別個に構築していた同じような機能を持つシステムを統合する、などといったことが挙げられる。

 当然のことながら、サプライサイドの取り組みより、デマンドサイドの取り組みの方が、コスト削減効果ははるかに大きい。しかし、多くの企業でいまだ手付かずの状態だ。

 デマンドサイドにおけるコスト削減の取り組みが、なぜ進みにくいのか。それは、こうした取り組みには、ユーザー企業において、情報システム部門のみならず、経営層やユーザー部門を巻き込むことが必要だからだ。つまり、ITベンダーとしては、ユーザー企業の情報システム部門のパートナーとして議論しているだけでは不十分で、経営層まで含めたユーザー企業全体に対するコミュニケーションが必要なのである。

 こうした取り組みは、最終的にはITガバナンスの再構築にもつながる。取り組みを推進するにあたって、要件定義、システム開発・メンテナンス時のプロセスの標準化、役割分担などを、全社的に再整理・導入しなければならないからだ。つまり、我々が2年ほど前から訴えているように、ITのROI向上にはITガバナンスが不可欠なのである。

 Return(効果)改善については、次の機会に述べたい。