オンライン・ゲームのキャラクターやアイテムなどをユーザー同士が実際のマネーで売買する「リアル・マネー・トレード」(RMT)。現在,RMTはゲーム業界の一大テーマだ。和田氏は「RMTの問題は『所有権とは何か』という議論に行き着く」と主張する。
(聞き手=ITpro発行人 浅見直樹,構成=ITpro 武部健一,写真=栗原克己)

≪この記事は姉妹サイトEnterprise Platformで好評につき,再掲しました≫

スクウェア・エニックス 代表取締役社長 コンピュータエンターテインメント協会 会長 和田 洋一氏
 スクウェア・エニックス 代表取締役社長
 和田 洋一氏

ゲームの幅を広げるという意味で任天堂の次世代ゲーム機「Wii」(*1)はこれまでと大分毛色が違いますね。それに比べると「プレイステーション3」(PS3)は既存の延長に見えてしまいます。

 いえ,本当はですね「Xbox 360」もPS3もWiiも今までと全然違うのです。ネットワーク対応ですからこれだけでも全然違う。これは極めて重要なポイントでネットワーク対応というだけでゲームのデザインはまったく違ってくる。

スクウェア・エニックスとしてはオンライン・ゲームについて,どのような新しいアイデアをお持ちですか。

 うーん,そういう意味では歯切れ悪いですね。なかなか難しいです。もちろん,今のオンライン・ゲームから類推できることはありますが,もう一段どうやったらブレークするのかはね。

 ある人が言っていましたが,PS3にしてもXbox 360にしても相当のスペックで,データを保存する場所を持っています。となるとサーバーなんです。サーバーとして何が面白いかというと,サーバーって親だよなと。クライアントが子供だとするとサーバーは親。つまり,ある限定されたネットワークの中で自分がゲームを司る。ゲーム・マスター(*2)になってもいいし,自分が編集した動画を流す放送局になってもいい。これまで親の立場のエンターテインメントはないのですよ。ユーザー参加型ゲームの究極は,ユーザー自身が完全に供給側になることですから。

 ただそれをやると何が面白いかというと,極論のアイデアはあるのですが,1億人の人が楽しめるようなものはまだないですね。オンラインとは何かをもっと考え抜く必要があります。

家ではパソコンで,街ではゲーム・センターで,電車の中では携帯電話で同じオンライン・ゲームを遊ぶといったワンゲーム/マルチデバイスはあり得ますか。

 もうありますよ。ウチも早くから手掛けています。ただ,ユーザーの習慣としてまだないですね。習慣として定着するにはもう少し時間がかかると思います。定着してしまえばドカンと来ますね。技術的にはもうできますから,何かきっかけがあれば一気に行きますね。

オンライン・ゲームではRMT(リアル・マネー・トレード)の詐欺などが問題(*3)になってます。

 RMTの問題は整理しなければならないと思います。問題になっているのはRMTの詐欺なんですよ。詐欺が問題なのであって,RMT自体が問題とはいえない。

 次に問題になっているのは「ユーザーが不快」だということ。例えば,「ファイナルファンタジーXI」(*4)ではRMTを禁止しています。RMTがないことを前提にゲームを設計していますから,RMTを目指す人が参加してくると,ちょっとバランスが崩れるんですよ。

「RMTはダメ」とは言ってない

ではRMTを前提にしたゲームの設計もあり得るのですか。

 そうそう。それはやればいいと思うのですよ。ウチのタイトルからは出ていませんが,「RMTはけしからん」なんて一言も言っていません。RMTをベースにした犯罪は,これは犯罪ですから犯罪として処理してくださいと。RMTが良いか悪いかという議論については,ゲーム・デザインがRMTを前提としていて,ユーザーの方々もRMTを前提として参加されるのであればやればいいと。そうではないのなら迷惑がかかるので止めてください,こういう話なんですね。

スクウェア・エニックスでもRMTを前提としたゲームを出される可能性はありますか。

 可能性はゼロではないですよ。やるのであればアイテム課金から始めますね。ユーザー間の売買は公設市場を中に設けます。最初からそういうデザインになると思います。

発展途上国のユーザーがキャラクターを育てて,日本人ユーザーに日本の物価水準で売るという現象も発生しています。どう思われますか。

 ゲームっていろいろな“限界的な”事例が出るんですよ。だからゲームの問題として捉えるのではなくて,もう少し掘り下げて本質的な議論をする必要があるでしょう。

 RMTの問題は「所有権とは何ぞや」という話なんです。デジタル財というのは誰かが所有するのであろうかと。所有権や占有権といった法律上の概念は物権ですから。物権ってモノだよなと。学生時代の判例の勉強で電気を盗むことができるか,というのがありましたよね。だから相当ちゃんと考えないと解けないですよ。

 CESA(コンピュータエンターテインメント協会)としてはこういう問題に取り組んでいくつもりです。諸外国との調整もありますので1企業では無理ですから。知的財産には相当関心があって,実は東大の先端研(*5)に拠点を持ってます。この問題は腰を落ち着けて議論しないといけないし,一方で実例が入ってこないと研究ができませんから両者で知財全般を議論する場を作っています。

他国はゲームが国家戦略

ゲーム業界に国の支援は必要ですか。

 実は,経済産業省のゲーム関連の記者会見に出てきたのですが,最近ようやく産官学でゲーム産業に取り組むことができるようになりました。韓国にしろ中国にしろカナダにしろ,国家戦略の中でゲーム産業をどう位置付けるかという議論があって,ゲームという単語が出てくるのですが,日本にはこれまでなかったんです。

日本はゲーム先進国のはずですよね。

 今のところはまだそうですね。

追いかけてくるのはどこの国ですか。

 米国ではゲームは巨大産業という位置付けなのでガンガン来るでしょうね。ものすごく人も循環してますし。新しい人が入って,新しい触発があって,いい循環になってます。これは手強いですよ。アジア各国は国家戦略として位置付けてますから,これも結構来ますよ。

 第2ステージに入ってますから,第1ステージは終わりなんです。第2ステージが甲子園だとしたら,第1ステージは地方大会。第2ステージはスクラッチ(ゼロ)からですから,他の国もヨーイドンで追いかけてきます。だからすごい競争になりますよ。


和田 洋一氏(わだ・よういち)氏
1959年愛知県名古屋市生まれ。1984年に東京大学法学部卒業後,野村證券入社。営業や経営企画,外務省出向中には海外勤務などを経験する。2000年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)入社。CFO(最高財務責任者),COO(最高執行責任者)などを経て,2001年12月から代表取締役社長。2005年には連結子会社タイトーの社長も兼務。2006年からはコンピュータエンターテインメント協会の会長を務める。