早ければ2007年末から2008年に,無線を使ったブロードバンド通信サービスが始まる。外出先でも,自宅と同じように高速なWeb閲覧や動画配信などのブロードバンド・コンテンツを楽しめるようになりそうだ。

 無線ブロードバンドとは,数十Mビット/秒の通信速度を実現する無線通信サービスである。これを実現する技術方式として,「モバイルWiMAX」,「次世代PHS」,「IEEE 802.20」が候補に挙がっている。現行の携帯電話も通信速度の高速化が進んでいるが,これよりも一段高速を実現しようというのが狙いだ。さらに携帯電話に比べて,安価なコストでインフラを構築・運用できると見込まれている。そのため,パソコンを利用したデータ通信サービスも定額にできる可能性がある。

 しかし現時点では,無線ブロードバンド向けに利用できる電波がない。電波がなければサービスは始められない。そこで無線ブロードバンドに2.5GHz帯を割り当てるべく,総務省の情報通信審議会において検討が進んでいる。早ければ11月には技術面の議論に決着が付き,2007年初頭~春には総務省がサービス提供を希望する通信事業者を募ることになる見込みだ。

図1 各事業者の取り組み。各社のロゴをクリックすると担当者のコメントを表示します  (クリックすると画面を拡大)
図1 各事業者の取り組み

 サービス提供を希望する事業者は多く,既に10社近くが前向きな姿勢を見せている(図1)。しかし,2.5Hz帯は2~4社分程度の電波しか確保できない見通し。半分以上の事業者は,サービス提供に至らずに脱落してしまう。そのため,通信事業者は実証実験を実施するなどして存在感をアピールしようとしている。

 ただ,各社とも「これが無線ブロードバンドだ」というサービス像は描き切れていない。図1にある各事業者のコメントも,歯切れの悪いものが多い。これには二つの理由がある。一つは,商用サービスで利用する機器の実力が,どの程度のものなのかが明確になっていないこと。無線ブロードバンドの基地局や端末は,今まさに機器メーカーが開発している段階。「量産品の実際のスペックがどの程度になるか,予想しにくい」(ボーダフォンの石原弘法務・渉外本部副本部長)という状況にある。

 もう一つは,まだ総務省が決定していない重要な条件が残っていることだ。総務省はサービス提供をする通信事業者に対して,いくつかの条件を付ける。具体的には,割り当てられる帯域幅や利用エリア,満たすべき人口カバー率などがそうだ。サービス内容に大きな影響を与えるこれらの条件が見えていない現時点では,通信事業者は具体的なサービス像を描きにくい。

 不透明な部分が多い状況ながら,通信事業者はサービス提供に踏み切るかどうかを,これから半年程度で決めなければならない。イー・アクセスの諸橋知雄WiMAX推進室最高技術責任者は「サービス内容の検討に掛けられる時間がもう少し長ければ,と思うことがある」と本音を明かす。

 しかし,無線ブロードバンド・サービスを提供できるかどうかは,既存の携帯電話やブロードバンド事業の競争力にすら大きな影響を与える。「具体的なサービス像は描き切れていないが,2.5GHz帯の無線ブロードバンド・サービスは絶対に提供したい」――。多くの通信事業者はこう口をそろえる。携帯電話/PHS事業者やブロードバンド事業者は,手探りの部分を多く残しながらも,無線ブロードバンドの商用化に向けて全力で走り始めている。