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【トップ講演】ITが経営のスピードを決める
--黒川 博昭氏 富士通代表取締役社長

経営とITの一体化−人とITとプロセスを進化させる−

2006/09/21

黒川 博昭氏 富士通代表取締役社長

 なぜ、経営とITの一体化なのか。私自身は経営者の立場から、(1)経営スピードに同期化したシステム活用が必要であること(2)ITが止まれば経営も停止するので、安定運用がITの価値の源泉であること(3)投資効果の見極めと向上が大切であること、の3点で考えている。

 ITが経営のスピードを決めるという実例を示したい。島根富士通はノートPCの全量を生産している。97年当時、製造手番は264時間で棚卸日数は37日だったが、04年には21時間、4日へと劇的な短縮に成功した。それをもたらしたのはセル生産方式やコスト削減運動という現場の業務革新活動と共に、グローバルなサプライチェーンマネジメントの展開、電子カンバンシステム、調達システム連携、BTO(受注生産)展開などによるIT革新がうまく融合したためだ。

図●ITが経営スピードを決める
図●ITが経営スピードを決める

 ITシステムは経営を進化させるドライバーであり、事業が進化すればITも進化しなければいけない。一方、IT技術が進化すれば、事業もそれを取り入れて進化しなければいけない。また、ITだけをいくら考えてもうまくいかない。人・モノ・金・情報というリアルワールドを扱うときに、必ず人間系のシステムとITシステムとを的確にマネジメントしていくことが大切である

安定運用は経営とITの一体化のスタートポイント

 そのためにどうすべきか。私は、ITの価値を生み出す安定運用を実現し、次に安定運用をべースにしてプロセスとITを変え、変革したプロセスとITをさらに進化させていくというサイクルを作るスパイラルアップ手法を取ることがいいと考えている。

 経営とITの一体化のスタートポイントは安定運用を実現することである。お客様は、「システムの安定運用によってビジネスを継続的に成長させたい」と考えている。しかし、担当者は交代し、IT環境も変わる。運用環境は時間とともに変化し劣化していく。ITにトラブルが生じれば、経営に大きなダメージをもたらす。そこで当社は、富士通の人材とマネジメントの品質を高めることを目的に、顧客の社会システム運用の総点検に取り組んだ。その結果、お客様の現場には多くのリスクが存在していることが分かった。

 例えば、作業品質に関するリスクとして、個人のスキルに依存した作業が行われている、作業履歴が残っていない、作業手順が明文化されていない。また、緊急事態が起きたときに、緊急度のレベル付けが行われていない、緊急時の役割分担・対応フローの規定がない、過去に作成したエスカレーションルールが周知・変更されていない、トラブルを想定した訓練がされていない。

 総点検で判明した安定運用を阻害する要素は、(1)作業品質(2)品質マネジメント(3)緊急トラブル対応(4)契約・役割分担(5)労働環境など。こうした点を踏まえて、システムを運用している現場を継続的に改善していく必要がある。そのためには、技術と規律、コミュニケーションをべースにしている「人」、運用プロセスを標準的に動かしていく意味での「プロセス」、そして「IT」の可視化、自動化、統合化が必要だと考えている。

 次にプロセスとITを変えることについて述べる。私は、ITをとらえるときにPDCAサイクルでマネジメントを見るときの「鳥の目」と、現場に即した「虫の目」で見る見方を統合し直す必要があるのではないかと考えている。その意味で、富士通は「フィールドイノベーション」を提唱している。現場とは、人とプロセスとITからできており、それを一体化しながら現場を改善するというスタンスに立たないといけない。

「鳥の目」と「虫の目」でプロセスとITを変える

 例えば、POSは店で立てた仮説を検証することに活用されている。しかし、RFIDタグを用いることによって購買に至る消費者の行動が見えるようになると、見える化の範囲が拡大する。そうすると、仮説の立て方も変わるのではないか。

 また、りそな銀行では、ATMを徹底して使う次世代店舗を展開しているが、お年寄りにはATMは使いにくい。そこで、ATMのそばに人を配置してATMでほとんどの処理が完了する仕組みを実現している。その結果、待ち時間ゼロ、伝票レス、後方レス、相談コーナーの充実を指向している。これは、プロセスとITと人を一体化することによって現場を変えた例である。

 そのために大切なことは、システムの開発や再構築をする前に現実のプロセスを「見える化」することだ。単に、ITの開発・再構築ととらえると失敗する。経営・業務プロセスの再構築だと考えなければいけない。例えば、要件定義のフェーズで業務運用の定義ができていなかったり、利用部門が参画しないプロジェクトは失敗する。経営とITとが一体化しているのだから、初めからその観点でシステムに挑まないとプロジェクトは失敗する。

経営とITを進化させるためには「見える化」が必要

 では、スムーズに経営とITを進化させていくためにどうしたらいいのか。富士通自身がまず、経営とITの進化を自ら実践して、お客様に対するリファレンスモデルになろうという取り組みをスタートさせている。その中身は、社内で「Project EAGLE」と呼んでいる業務プロセスの改革と社内ITの革新の2つだ。

 業務プロセス改革に関しては、金融商品取引法という法制度への対応にとどまらず、社内にあるムダや不適切なプロセスを改善することも組み合わせてビジネスプロセスの見える化を進めている。 社内ITの革新に関しては、IT化方針の明確化と徹底した推進に取り組んでいる。具体的には、システムアーキテクチャの統一や開発フレームワークの統一、SOAに基づく業務システムのモデル化等によってシステムの再構築を進めていく考えである。

 一方、経営とITの一体化が進む中で、ITがブラックボックス化して見えなくなる。そこで、リアルワールドを写像したITシステムと人間系システムを見えるようにする必要がある。富士通では、ITの見える化をビジネスプロセスマネジメントによって追求している。そうすると、業務の流れや業務の滞留個所が分かる。また、現場を観察して人間系システムを見える化するフィールドワーク研究も大切だ。

 富士通は、ITを軸にしてお客様にとってかけがえのないパートナーになりたいと願っている。現在はITが変わり目にある。その中で自分たちも経験をしながら、お客様と共に成長していきたい。

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