マイクロソフトは現在,企業ユーザー向けボリューム・ライセンスの拡販に力を入れており,購入者向けの特典の追加にも熱心だ。しかし,特典を使いこなすためのサポートにまで手が回らず,ユーザーの特典に関する認知度や利用率は低いのが現状だ。その現状を打破すべく,大手販売代理店の大塚商会が独自に,ボリューム・ライセンスを使いこなすための無償セミナーを始めている。大塚商会が説明するボリューム・ライセンス制度の使いこなし術を紹介しよう。

 Microsoftは,ボリューム・ライセンス契約でも特にソフトウエア・アシュアランス(SA)を購入した企業(全社一括契約であるEnterprise AgreementはSAの購入が必須)に対して,「社員がMicrosoft Officeを無料で自宅利用できる(3150円のメディア送付料は別途必要)」「サーバー管理などの技術講習を無料で受けられる」「MSDNやTechNet Plusが無料で提供される」といった「特典」を提供している(関連記事:マイクロソフト,ソフトウエア・アシュアランスの“新特典”を明らかに)。

 ところがこれらの特典は,大口契約である「Select」や「Enterprise Agreement(EA)」の契約ユーザー企業に対してMicrosoftが提供している,「Microsoft Volume Licensing Services(MVLS)」()というボリューム・ライセンス契約のオンライン管理ツールを使いこなさなければ権利を行使できない。


図:Microsoft Volume Licensing Services(MVLS)の画面(社名は架空のもの)
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 今回のセミナーを企画した大塚商会テクニカルプロモーション部Microsoftグループの高井瑞穂主任は,「MVLSを使いこなしているユーザー企業はごく少数」と嘆く。MVLSにはかなりクセがあって慣れるのに難しいことや,マイクロソフトの営業担当者(SelectやEA契約のユーザー企業にはマイクロソフトの営業担当者が専任でつく)が,MVLSの説明にまで手を回せていないのが主な原因だ。そこで,マイクロソフトに代わって,大塚商会がMVLSの使い方を説明し始めた。「MVLSの使い方に絞ったセミナーを開催するのは,日本でも初めての試み」と高井氏は語る。同社では9月8日に第1回のセミナーを横浜で開催したほか,9月26日にも同内容のセミナーを東京で開催する(同社の申し込みページ)。

MVLSの存在すら知られていない

 大塚商会のセミナーでは,MVLSを使うためのユーザー登録のやり方から説明が始まった。つまり,MVLSはユーザーに使われてすらいないようなのだ。セミナーに参加したある企業のシステム管理者も「当社は7月にEA料金の値上げがあると聞いて,あわててEAを契約したのだが,マイクロソフトの営業は『MVLSというツールがあります』というだけだった」と憤る。

 マイクロソフトはSelectやEAの契約企業に,MVLSのURLや使い方などをメールで連絡する。しかもこのメールは,契約書に記載された「担当者」のところに届く。多くの日本企業では,契約書の担当者欄には現場のスタッフの連絡先ではなく,システム部門の責任者の連絡先を書くケースが多い。そのため「実際にMVLSを使う担当者のところに連絡が届かないので,MVLSが使われない」(大塚商会の高井氏)のだという。

 MVLSを使うためには,まず契約書に記載された(メールを受け取った)担当者が,「Windows Live ID」(旧名称は.NET/Microsoft Passport)を使ってMVLSにユーザー登録をし,実作業を行う現場の担当者を「MVLS管理者」として追加する必要がある。セミナーでは,こういった手順を,数十分にわたって解説している。

インストール・キーを調べるのもMVLS

 セミナーでは,MVLSを使って「インストール・キーを調べる方法」「無料のMSDNを入手する方法」「SAの特典を入手する方法」「ボリューム・ライセンス・メディアのディスク・キットを検索する方法」などが説明された。

 SelectやEAでは,ユーザーの手元に,様々なマイクロソフト製品のインストール・メディア(ボリューム・ライセンス・メディア)を納めた「ディスク・キット」が送られてくる。このディスク・キットからインストールしたソフトウエアはアクティベーションが不要であり,管理性に優れている。またサーバー製品などは,インストール・キー(プロダクト・キー)を入力する必要がない。

 OSやMS Officeなどは,ボリューム・ライセンス・メディアを使う場合でも,インストール時にプロダクト・キーを入力する必要がある。これらのキーは,パッケージ製品のようにディスク・メディアの箱や袋に記載されているわけではない。システム管理者がMVLSを使って調べる必要がある。操作自体は簡単だが「MS Officeは,スイート(統合)製品をインストールするのに使うキーと,単体アプリケーションをインストールするのに使うキーが異なるので注意してほしい」(高井氏)という。

無料ソフトや特典の利用には登録が必要

 SelectやEAの契約企業は,「MSDN」を無料で1本入手したり,社員がMS Officeを無料で自宅利用できるようにしたりする「特典」が利用できるが,これらの権利を行使する際は,MVLSでの登録作業が必要だ。

 例えばMSDNを入手する場合は,実際にMSDNを使用する社内ユーザー(開発者)の名前や電子メール・アドレスをMVLSで登録して,マイクロソフトに通知する必要がある。SA特典である無料講習会を受講する際にも,受講者の名前などを登録する必要がある。セミナーでは「受講者の名前は,Excelシートで一括登録できる」などのテクニックも披露された。

 社員がMS Officeを無料で自宅利用できるようにするためにも,簡単な登録作業が必要だ。「自宅使用プログラム」の有効化と,会社で使用している電子メール・アドレスのドメインを登録するだけでよい。これで,会社で使うものとは全く別に,社員が自宅で使うパソコンにインストールするMS Officeを,無料で入手できるようになるのだ。

 自宅利用に使うMS Officeのインストール・メディアは,社員各自がマイクロソフトの「自宅使用プログラム (Home Use Program: HUP)」というWebサイトで注文する。ここで,社員が契約企業ごとに割り当てられた特別なキャンペーン・コードと,その企業の社員であることを証明する電子メール・アドレスを登録すると,社員の元にマイクロソフトから電子メールが送られてくる。電子メールに記載されたWebサイトで注文作業(メディアの送付先の入力や,3150円の送料を支払うためのクレジット・カード番号登録)などを済ますと,社員の元にインストール・メディアが送られてくる。

 普通に買えば何万円もするMS Officeが,簡単な作業を済ますだけで,3150円で利用できるようになるわけだ。セミナー参加者の反応も大きかった。Office 2007が登場すれば,当然この新製品も自宅で利用できるようになる。EA契約をしていながら,まだ自宅使用プログラムを利用していない企業は,この特典の有効化を検討されてはいかがだろうか。