筆者は当初,Windows Vista RC1(Release Candidate 1)のレビューとして,パフォーマンスを取り上げようと思っていた。しかし,ベンチマーク用にインストールしたゲームの半分以上が完璧に動作せず,最悪のケースではインストールすらできないという事態に見舞われた。そこで今回は計画を改め,第4回(高いアプリケーション互換性)で取り上げた互換性の話題を補足しようと思う。

 Windows Vista RC1(並びにビルド5536と5582)は,従来のWindows Vista評価版と比較して,ソフトウエアとハードウエアの互換性という観点で,めざましい進歩を遂げている。それでも,いくつかの奇妙な事態が発生した。「ThinkPad T60」で起きたデジタル出力デバイス(SPDIF)のトラブルは第4回でも触れた通りだが,ハードウエア・トラブルはこれだけではなかった。

頻発する小さなハードウエア・トラブル

 ノートPC「Dell Latitude D810」では,ビルトイン・スピーカーで音がきちんと出ていたのだが,このマシンでDVDムービーを再生しようとしたところ,ヘッドフォン・ジャックから音が出ないことが判明した。実は筆者は,飛行機の中でDVDムービーを見ようと思っていたのだ。幸いフライトは短時間だったし,iPodと面白い本を持っていたので時間つぶしには苦労しなかったが,面食らった。

 実は,筆者がWindows Vistaをインストールした何台ものパソコンで,似たようなハードウエアにまつわる小さなトラブルが起きている。また,同じDellのノートPCで,ソフトウエアに関するトラブルも起きた。DVD再生ソフト「Cyberlink PowerDVD」は,Windows Vista RC1に問題なくインストールできたが,DVDをスムーズに再生できなかった。Windows Media Player 11では,問題なくDVDを再生できるにもかかわらずだ。

 新しいユーザー・インターフェースであるAeroを使っていない状態でも,画面表示がちらついたり乱れたりするアプリケーションもたくさんあった。特にJavaアプリケーションでその問題は激しかったし,QuickTimeやVirtual PC,Virtual PC上で動作するアプリケーションでも似たような問題が起きた。

 先に述べた通り,ゲームもかなり正常に動作しなかった。「DOOM 3」「Quake IV」などである。また深刻な問題ではなかったが,「Far Cry」もビデオ設定を調整するまで,うまく動かなかった。「Unreal Tournament 2004」は,第5回(XPからのアップグレードを試す)で紹介した通り,Windows XPからアップグレードしたWindows Vistaでは,なぜか正常に動作した。奇妙なことである。

 違う種類のアプリケーション・トラブルもあった。「Office 2003」は,ほとんどの面で快調に動作する。ただしOutlook 2003で,前回使っていたときの画面サイズを記憶しない,というトラブルが発生した。つまり,Outlook 2003を起動するたびに,ウインドウがデフォルト・サイズに戻ってしまうのだ。しかも奇妙なことに,デフォルト・サイズはモニターの縦横のそれぞれのサイズに対する比率で決められているようだった。またOutlook 2003で受信した電子メール中のハイパーリンクがクリックできなくなっていた。ハイパーリンクの文字列をいちいちコピーして,Internet ExplorerやFirefoxのアドレス・バーに張り付ける必要がある(つまり,ハイパーリンクが単なるテキストになっていたのだ)。

Microsoftはすべてのバグを取り去れるだろうか?

 ここで状況をまとめてみよう。全体を見ると,Windows Vistaは非常にうまくいっている。ソフトウエアとハードウエアの互換性は,従来よりもはるかに良くなっているし,多くのユーザーが評価版の段階で「使えるOSだ」と認める存在に仕上がっている(ただしこれは,x64版を使っていない場合の感想だ)。しかしながら,Windows Vistaを使い込み始めると,多くの小さな問題があることに気づくだろう。筆者はこれらの問題が「showstoppers」(利用を完全に阻害するようなバグ)だとは思っていない。しかし,Microsoftが製品完成までに,これらの問題を取り除かねばならないのは明らかである。

 ただし,ここからが問題だ。MicrosoftはWindows Vistaのコードを2006年10月25日までに完成させて,ボリューム・ライセンス版の製品(Windows Vista Enterprise)を11月末までに企業顧客向けに出荷する計画だ。10月に完成したWindows Vistaが,パソコンの新製品とともに店頭に並ぶのは2007年1月になる。このデッドラインに間に合わせるためにMicrosoftがとれる手段は,製品をとにかく完成させてしまうことだけである。

 ここからは筆者の推測になるが,Microsoftは10月にWindows Vistaの完成(RTM,Release to Manufacturing)させてから2007年1月になるまでの間に,デバイス・ドライバやソフトウエアの互換性を保つための修正プログラムを大量に追加するのではないだろうか。そしてこれも推測だが,Microsoftはこういった修正プログラムを,Microsoft Updateで「優先度の高い更新プログラム」として配布するのではないかと筆者は思っている。強いて例えるなら,準備のできていない飛行機が,定刻通りのフライトをするようなごまかしするのではないか,と危惧しているのだ。

 もっとも,Windows Vista RC1の現状がどうであれ,これだけははっきり言える。RC1は,Beta 2と比較して非常に良いし,Windows XPと同等のレベルに達しているという筆者の最初の感想は,間違っていないと思っている。もちろんだからといって,Windows Vista RC1が完璧だというつもりはない。

Paul ThurrottのWindows Vista RC1レビュー

(第1回)5つの素晴らしい機能
(第2回)まだ残る暗黒面
(第3回)Beta 2からの改善点
(第4回)高いアプリケーション互換性
(第5回)XPからのアップグレードを試す
(第6回)互換性に関する補足