籾井 勝人氏 日本ユニシス代表取締役社長 兼日本ユニシス・ソリューション代表取締役社長

 1年前に日本ユニシスの社長に就任し、今、1年を振り返ると、非常にフレッシュであった。と同時に「変だな」と思うことがいくつもあった。IT産業に身を投じた立場として、日本のIT産業の将来を考え、ITベンダー、ユーザー、関係者一同が解決していかなければならない課題だと私が認識していることを述べたい。

お客様との相互理解のもとでシステム開発を

 まず、最初の課題は「あいまいな商慣習」である。さまざまなビジネスにおいて普通は、当事者の権利・義務は明確になっているものである。ところが、IT業界では「何を受注して、義務が何で、何をどこまでやればいいのか」がはっきりしていない。それから、1度決めた後でもどんどん積み増しが起こる。

図●1年を振り返って
図●1年を振り返って

 ITそのものが、値段がいくら、納期がいつ、規格がこれこれ、というように記述しにくい部分があることは承知している。しかし、これほどはっきりしていない業界はないのではないか。ITの世界といえども、ビジネスの基本に戻り、お互いの権利義務を明確にし、それを実行していく必要がある。

 次に「分かりにくい業界用語」。この課題に対しては、業界全体で、取り組むべきである。分かりやすい言葉でITを説明し、何をやろうとしているのか、ITをやったら何がどう変わり、どのような利点があるのか、お客様にはっきり分かっていただかないと、ITの本来的な価値も認めていただけない。

 「学」の方でも、ITを分かりやすい言葉で学生に教えることにより、ITを学ぼうとする学生も増えてくるだろう。これにより、幅広い学生の中から採用を行え、優秀な人材を確保できる。それぐらい大事な問題ではないかと認識している。

 次の課題として、コミュニケーション(相互理解)の問題がある。それを通じてお互いに何を求め、何を引き受けるのかということが理解できる。お客様が業務上何を必要としているのかを我々が完ぺきに理解できれば、システムのトラブルが起こることもないだろう。そこを分かっていないところがトラブルの一番大きな原因ではないか。

 分かりやすい言葉で、そしてコミュニケーションを密接に取ることで、お互いの理解が深まり、お互いに誤解がなければ、本当にお客様が望むシステムをきっちりと用意できるだろう。

 コミュニケーションで重要視するのは、相手の立場で考えること。分からないことについては徹底的に議論して解明する必要がある。議論の際には率直に意見を交換する。そして、お客様と一心同体になってシステムを開発することである。

社会インフラに求められる品質の重要性と課題

 ITは人々の社会生活やお客様のビジネスに深いかかわりをもってきている。システムの「品質」の良しあしが直接お客様、あるいは社会生活に影響を与えてくる。しかし、人間が手作りで行うシステムの「品質」を確保するためには、いくつかの要因があり、その1つに「納期の余裕(ゆとり)」というものがある。

 もちろん、納期が決められているのは大事だが、納期には多少のゆとりがあった方が、結果的にはいい品質のものが安くできるのではないか。納期が半分になると難しさは2倍ではなく4倍ないしは8倍になる。お客様からは経営のスピード化で相当早い納期が求められるが、結果として、きちっとしたシステムがきちっと動くようにするためには、お客様に納期の余裕について理解を求める必要がある。

 次の課題は、技術の重要性である。現在、ほとんどの技術がハードやソフトを問わず欧米に依存している。「本当にこのままでいいのか、日本」というのが正直な思いだ。一方、中国やインド、ベトナム等々のアジアの諸国はどんどん進化している。そういう状況を鑑みると、技術に対し抜本的に考え直し、投資すべきではないかと認識している。

 次に「過密した市場」という課題がある。いわゆるITベンダーは1700社ほどある。しかし、過当競争で利益を上げていない。これは、人件費がほとんどのこの業界にあって、必要なコスト、あるいは作るもののバリューをお客様に本当に認めてもらっていない。別な言い方をすると、認めてもらうようなことをやっていないのではないか。これではいい給料も払えないので、優秀な学生も来ない。このままでは、IT業界の将来がない。この問題は、業界全体で考えていく必要がある。

 さらに高度技術者不足、いわゆる2007年問題が目前に迫っている。私は、この問題を解決するには、高度な技術を持った高齢者の方に、定年を延長してとどまってもらうことが最善の方法だと考えている。経験豊富な先人の技術を維持し若い世代に継承する。そのためには、良い人材が必要で、現状の労働環境の改善が必要になってくる。

 アジアの国々との連携も重要で、弊社では今年の6月1日、ベトナムに開発センターを開設した。アジアには、いろいろな国があるが、その中でもベトナムがいちばん日本に興味を持ち、関心を寄せ、なおかつ皆日本語を一生懸命に勉強している。そのベトナムに拠点を設置できたことは弊社の誇りで、当初の予定より数倍速いペースで、1000人体制まで拡大していくことを目指している。

幸福な社会作りに貢献するIT活躍する場はたくさんある

 日本はこれまで、いわゆる製造業で世界に冠たる日本というものを作り上げてきた。ITにおいても、やはり日本は世界に冠たる国でなければならない。

 目前にはさまざまな課題はあるが、IT業界全体で活発な議論を行い、将来に向かって改善すべきは改善していく必要がある。私は、一企業の社長に過ぎないが、自分の持ち場で、できるところからやっていけば、人々の幸せに貢献することができ、ひいては、業界全体の発展に寄与できる。

 世の中には、少子高齢化の問題、地域の過疎化等々、いろいろな問題がある。しかし、人は、高齢になっても生きていかなければならない。そんななかで、ITが貢献できることは非常にたくさんある。私の出身地の近く、福岡県の飯塚市では、地域一丸となって、過疎の町をどうやって再生するかというプロジェクトに取り組んでいる。全国には、こうした地域がたくさんある。

 ITというものは、人々の今後の幸福な生活になくてはならないもので、我々IT業界はそれに貢献できると自負している。