「Windows XPをWindows Vistaにアップグレードする」というシナリオは,Microsoftがテスターに対して「Windows Vista RC1(Release Candidate 1)で試してほしい」とお願いしている行為の1つである。Windows XPがインストールされたマシンにWindows Vistaを上書きインストールするとどうなるのか,Microsoftも知りたがっている。通常であれば,なるべく避けて通りたいシナリオである。

 大体,まともに動くWindows XPをアップグレードによって台無しにしたがる人がいるだろうか。一番確実なのは,Windows Vistaをクリーン・インストールするか,デュアル・ブート環境を構築するやり方である。それに,Windows Vistaが完成した暁に人々が採るべき最も賢明な選択肢は「単純に新しいパソコンを購入する」である。このアドバイスが真実であることは,瞬時に理解できるだろう。読者の皆さんでも,Windowsのアップグレードをしたことがある人は,ごく少数だろう。おかしな事態が起こりすぎるからだ。

 しかし,人がやらないことを敢えてやるのが筆者の仕事でもある。そこで筆者は,ある日の午後を既存Windows XPマシンのバックアップに費やしてから,Windows Vistaへのアップグレードを試みることにした。好奇心に従ったとしか言いようがない。

 実は,筆者が長い時間を費やして実行したのはバックアップだけではない。いくつかのファイルの移動も行っている。というのも,Windows Vistaをセットアップするためには,15Gバイトものディスク空き容量が必要だからだ(OSのインストールのためだけに)。これで,筆者のメイン・マシンであるWindows XPデスクトップ・パソコンを科学の名の下に犠牲にする準備が整った。

結論から先に言うと,驚くほど順調

 幸いなことに,アップグレードはスムーズに進んだ。実は,筆者は現在このレビューを,Windows XPからアップグレードした当のパソコン上で,Word 2003を使って執筆している。Word 2003は,アップグレードする前のWindows XPに何カ月も前にインストールしたものだ。他の信じられないほど多くのアプリケーションと同様に,Word 2003はほとんどの場面でとても快調に動作している。正直なところ,筆者はすべてがあまりに上手くいったことに,とても驚いている。

 もちろん,すべてが迅速かつたやすく進んだわけではない。すべての作業にかかった時間は,90分を超えている。これは,Windows Vista RC1を同じハードウエアにクリーン・インストールした場合にかかる時間のおよそ3倍である。また,いくつかの「動作困難」と判定されたアプリケーションを削除するまで,Windows Vistaはインストールすらできなかった。つまりWindows Vistaのインストーラは,筆者が新しい環境に持ち込むアプリケーションの数を,奇妙なやり方で減らそうとした。これは,Windows Vistaのインストーラが「このアプリケーションはWindows Vistaで動かない」ということを知っていたからに他ならない。

使い込んだWindows XPをアップグレードした


図1:Windows Vistaのアップグレード・アドバイザ
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図2:アップグレード前にシステムがスキャンされる
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図3:アップグレード・アドバイザはWindows Vista Businessへのアップグレードを推奨した
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 それでは実際の手順を追っていこう。

 筆者のWindows XPマシンは,完全に「ジャンク」だったと言って差し支えない。そのWindows XPマシンには,筆者のすべての音楽ファイルやビデオ・ファイル,写真ファイルが入っているだけでなく,筆者の常用する有益なアプリケーションと,ほとんど使わないほぼテスト目的にのみインストールしたアプリケーションがどちらも大量にインストールされていた。読者の皆さんには,筆者の「Program Files」フォルダをお見せしたいほどだ。どうしてこれほどの数のアプリケーションをインストールしてしまったのか,自分でも頭を抱えたくなる。筆者は文書ファイルやメディア・ファイル,古い電子メールやブックマークなどを,容量500Gバイトの外付けハードディスク「Western Digital My Book」にバックアップしてから,アップグレードに取りかかった。

 それから,筆者はWindows Vista RC1のDVDをおもむろに挿入して,Windows Vistaの「アップグレード・アドバイザ」(図1)というツールを起動した。筆者は,このツールがRC1で非常に変化していることに驚いた。アップグレード・アドバイザは,非常に長い時間をかけてシステムをスキャンしてくれるが(図2),ユーザーがアップグレード後に何をしたいかは聞いてくれない。その代わりに,ユーザーがこれまで何をしてきたか分析した上で,アップグレードにふさわしいエディションを推薦してくれる(図3)。筆者の場合は,「Windows Vista Business」だった。なお,従来の評価版における同ツールは,筆者に対していつも,最も高価なエディションである「Windows Vista Ultimate」を推薦していた。もちろん,ツールが何を推薦したとしても,ユーザーは「Home Basic」でも「Home Premium」でも,もちろん「Business」や「Ultimate」でも,自由にエディションを選択できる。

 筆者のケースでは,全般的にうまくいった。アップグレードの後に,サウンド・ドライバをWindows Updateからダウンロードする必要があったが,この作業はすべて自動的に行われた。ユニデン製のWindows Live Messenger対応電話機(これは本来,上手く動くはずだと聞いている)など,いくつかのハードウエアに問題が残った。しかし,Windows Vistaはほとんどのハードウエアとうまくいっている。

 もっとも,危なっかしいアプリケーションもあった。CD-R作成ソフトの「Nero 7 Ultra Edition」である。