マッキンゼーアンドカンパニー アソシエイト プリンシパル 萩平 和巳 氏 萩平 和巳 氏

マッキンゼーアンドカンパニー アソシエイト プリンシパル
商社,IT企業を経て入社。IT戦略やITガバナンスの策定などを支援すると共に,ITベンダーに対してもコンサルティングを行っている。

 ITのROIを向上させるための提案として、前回(12月15日号)はInvestment(コスト)削減について述べた。では、Return(業務効果)の向上はどのように行うべきなのだろうか。

 ユーザー企業の経営課題は何か、その経営課題を解決するためのレバー(てこ)は何か、それを改善するために必要な業務施策は何か、施策を支える業務インフラとしてのITに何を求めるのか―この一連の問いに答えない限り、IT投資のリターンを高めることは不可能である。気をつけなければならないのは、経営課題とそれを解決するためのレバーは、同じ業界でも企業ごとに異なることだ。当然、打つべき業務施策も、導入すべきITも大きく異なる。

 例えば小売業でも、米ウォルマート・ストアーズのようにEDLP(エブリデー・ロー・プライス)を訴求する企業と、ポイントプログラムなどを駆使したワン・ツー・ワン・マーケティングで顧客を囲い込もうとする企業では、レバーも施策もシステムも当然異なる。「リテールリンク」などの世界最高峰のウォルマートのシステムを使える西友が試行錯誤を続けているのが、その証である。

 従って、本来ならユーザー企業の課題を解決するには、各社固有の状況に応じて、その企業に最も適した解決策(ソリューション)を導き出さなければならない。だが、いわゆるITコンサルタントは、多くのテンプレート、つまり、企業が抱える典型的な経営課題とそれに対応する解決策をあらかじめ有しており、顧客に合いそうなテンプレートを選んで提案するのが一般的だ。効率的かつ横展開が容易な一方、プロダクトアウトである分、提案したテンプレートが本当にその企業で必要とされているか疑わしい場合も多い。

 一方、戦略コンサルタントは基本的にテンプレートを持たず、各社固有の状況に応じて解決策を一つひとつ導き出す。その解が企業固有の課題や組織、文化にフィットする可能性は高いが、テンプレート利用よりも時間がかかるし、その手法を提供できるのは訓練を何年も積んだ一部の人材に限られ、規模の追求は困難である。

 そこでITベンダーとしては、経営・業務課題の改善につながるシステムノウハウを確実にテンプレート化すると共に、ユーザー企業個々の課題に応じた業務改善とそれを下支えするITをセットにした提案をコンサル営業していくことが望ましい。複数案件をこなすことによる規模の利益を追求できるし、実装の確実性も向上し、ユーザー企業から見た信頼性や便宜性も向上するからである。もちろん、テンプレートの押し売りは厳禁だ。

 我々がユーザー企業のIT戦略を立案する場合は、その業界はもちろん、その企業の戦略や組織、業務、人材、文化などを熟知したコンサルタントをチームに入れて検討を行う。さもなければ、戦略にそぐわないIT投資ポートフォリオ、組織スキルに対するシステム機能/インタフェースの過不足、部分最適もしくは全体最適すぎるシステム企画―などの問題が生じる可能性が高い。

 ITベンダーもユーザー企業にコンサルティング営業を行う際には、ユーザー企業をよく知るアカウント営業やSEが、システムのみならず経営や業務をよく見据えて、業務リターンを向上させる提案を行うことが重要である。