マッキンゼーアンドカンパニー アソシエイト プリンシパル 萩平 和巳 氏 萩平 和巳 氏

マッキンゼーアンドカンパニー アソシエイト プリンシパル
商社,IT企業を経て入社。IT戦略やITガバナンスの策定などを支援すると共に,ITベンダーに対してもコンサルティングを行っている。

 IT業界においては新たなビジネスモデルが必要であり,それを怠った企業は淘汰される──。業界構造や環境に対する筆者のこうした展望は,5~6年前からほぼ変わらない。事業環境の変化の予兆が随分前から存在したわけだが,特に最近,顕著になったものがある。ICTとNGN(次世代ネットワーク)のインパクトである。

 ICTとは,言うまでもなくITと通信の融合のことだ。具体的にはネットワークとコンピュータハード,アプリケーション,場合によってはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といったサービスまでが,ユーザーから見てシームレス化することである。SaaSもその一例だが,ネットワークを提供する事業者などとサービス利用契約さえ締結すれば,ネットワーク経由で様々なアプリケーションや業務サービスが利用できるようになる。

 ICT化と並行に,ユーザーの二極化が進行している。アーキテクチャの検討や要件定義ができる大企業や,サーバーインストールから障害対応まで自前でできる中小企業がある一方で,そのようなスキルはなく,できれば包括的にアウトソースしたいと考えている企業がある。既に後者の企業は,ネットワークとPC,OA機器などをワンストップで調達しつつある。それは,このセグメントにフォーカスしたITベンダーの好業績を見ても明らかである。

 さらにNGN時代の到来によって,ネットワークを巨大な知的インフラとして活用し,“個客”への新たな価値の提供,またはそのデリバリーモデルの抜本的改革が可能となる。今後,セキュリティネットワークや,ユーザー認証・課金,帯域管理,ルーティング制御などは,各社が自前で構築するより,圧倒的なスケーラビリティを持つ通信事業者の安価で可用性の高いインフラを活用した方が効率的になる。その上に個人向けの広帯域の動画サービスや,企業を対象にした“リアルタイム”で“ユビキタス”な業務サービスを提供することが可能になるであろう。

 そうした動きを受け,今後さらに情報システムのユーティリティ化が進み,一部のバックオフィス業務もサービスとして委託されるようになるだろう。その際,ユーザーから認知され,評価されるのは,ネットワーク経由で提供されるサービスのサービスレベルだけである。サービスがどのようなハードやネットワーク,アプリケーション,運用,BPOなどで実装されているかは,ユーザーにとってあずかり知らぬところとなる。

 ITベンダーにとっての意味合いは,ネットワークからBPOまで全レイヤーのコモディティ化である。SIで言えば,工数をかけて要件にあった機能を提供しようが,コンフィギュレーション機能を強化し要件を取捨選択して機能を提供しようが,ユーザーの事業にとっての価値はあまり変わらなくなる。

 こうした動きは,現在のシステムがリプレースされる5年後までは,まだ本格的な潮流にはならないかもしれない。しかし,その次のリプレースのころには,システムをオンサイトで持つことの必然性をユーザーが問い直すようになるだろう。従って,10年後には現在のSIや高可用性インフラの市場は低減すると考えられる。

 次回の私のコラムでは,こうしたことを前提に,ITベンダーの新たなビジネスモデルや事業機会について述べる。