新キャタピラー三菱のCIO的な役割を担う
青木英高・情報戦略室長

 三菱重工業と米キャタピラー社が50%ずつ出資している建機国内大手の新キャタピラー三菱(神奈川県相模原市)が好調だ。2006年3月期は、売上高3861億円と経常利益207億円を計上した。過去4年間で売上高は1.5倍、利益は8.6倍となっている。この間、積極的にIT(情報技術)に投資している。2002年から2006年にかけて「全社ITプロジェクト」として、60億円を投じて販売や生産、経営管理などを強化した。その中には、生産管理システムや独SAP社のR/3導入、全社的なCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の運用も含まれている。

 同社のIT投資の中心的な役割を果たしているのが、CIO的な役割を担う青木英高情報戦略室長だ。兵庫県明石市と神奈川県相模原市の両工場に20年以上勤務してきた生産管理のプロフェッショナル。3年半前に経営企画室から情報戦略室が独立する際に初代室長に就任した。IT部門への異動を告げられた際には「何で私なのだ」と驚いたいうが、今では「ITと生産管理は通じるものがある。Q(品質)、C(コスト)、D(納期)、F(フレキシビリティ)、S(工場ではセーフティー、ITではセキュリティ)の5つが大切なのは同じだ」と話す。

 米国側の親会社であるキャタピラー社は、8社の大手ITベンダーと戦略的パートナーシップを組んでいる。そのため、子会社である新キャタピラー三菱もその恩恵を受けて、製品購入やサービスが割引される。ただし、黙っていても自動的に安くなるわけではないという。米イリノイ州の本社まで乗り込み、関係部署を駆けずり回って手続きに奔走してきた。「キャタピラーグループの売り上げでは日本は1割を占めるが、売り上げに占めるIT投資の割合は米キャタピラー社が4%に対してうちは1.2%。なかなか重要視してくれない」と嘆く。

 「工場にいたころは米本社の人間がよく見学に来ていた。日本の工場の改善活動は参考になるからだ。でもITに関しては逆。我々が向こうに勉強に行くことがあっても、その逆はない」と青木室長は悔しさを見せる。今後はプレゼンスを高めるためにもキャタピラー社の中国法人とアジア・パシフィック地域の情報戦略に関する連絡体制を整えることを考えている。「2010年に向けてのIT投資の方向づけを考えていかねば」と話す。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
 常務執行役員以上を集めて3カ月に一度、「IT4半期フォロー」と呼ばれる、ITプロジェクトの進ちょく状況の確認などを行う場を設けている。幸いなことに日米両方の役員で「俺はITはわからんから」と話す人間はいない。各部門で使われるシステムについては情報戦略室ではなく、その部門の役員が責任を持つ体制にしている。そのため、各役員がそれぞれの担当分野のシステムについてよく勉強してくれている。

 定性的な効果についても、きっちり説明することも重視している。システム導入の効果を定量的な部分だけ話しておくと、「あれだけ使っているのに、どれだけもうかっているのか」ということになる。定性的な効果というのは測りにくいが、きっちりと見極めて経営陣にも説明するようにしている。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
 我々自身が利口でないといけない。システムに求める品質とコストのバランスは結局、現場の人間しかわからない部分はある。ITベンダーの提案だと、そのバランスが現場のニーズと一致しないことがある。例えば、銀行と工場のシステムにおける安定性は同じ質を求められない。あくまで現場のニーズに即したものを提案してほしいし、要望していきたいと思う。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・朝日新聞
・日経情報ストラテジー
・CIOマガジン

◆最近読んだ本
・『国家の品格』(藤原正彦)
・『技術にも品質がある―品質工学が生む革新的技術開発力』(長谷部光雄)
・『モチベーション・リーダーシップ 組織を率いるための30の原則』(小笹芳央)

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
Yahoo!
Google

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
ガートナー社主催のセミナー。集まったメンバー同士の討議があるので良い。

◆ストレス解消法
ゴルフやウォーキング、自転車などで汗をかくこと