文・吉田 英憲(日立総合計画研究所社会システム・イノベーショングループ 研究員)

 EVM(Earned Value Management)は、ITシステム構築などのプロジェクト活動の進ちょく状況を管理する手法の1つです。EVMの特徴の1つとして、活動の進ちょく状況だけでなくコストの発生状況なども合わせて指標に換算して同一のグラフで管理できることが挙げられます。

 EVMを活用する主な狙いは二つあります。一つは、ベンダーなどの受注者が自らの作業の進ちょく状況を管理するため。もう一つは発注者がベンダーなど受注者に進ちょく状況を報告してもらうためです。これにより、プロジェクトの遅延やコスト超過を早期に発見することができるなどの効果が期待されます。

 EVMの大まかの流れを説明すると以下のようになります。EVMでは「計画立案」と「現状把握」を行います。まず計画立案では、例えばプロジェクト全体を細かい作業に分割した構成図を作成していくWBS(Work Breakdown Structure)などの手法を用いて、プロジェクト活動を複数の工程に分割します。そして、各工程で必要な予定工数、すなわち「出来高計画値(PV:Planned Value)」を算出します。

 そして現状把握では、その時点までに完成した成果物を「出来高実績値(EV:Earned Value)」に換算し、実際の「投入実績値(AC:Actual Cost)」を把握します。PVとEVの差がスケジュールのズレ、EVとACの差が工数のズレとなります。さらに、現時点の進ちょくを基にして、プロジェクトの完了時期や発生工数の推定ができます。

■図 EVMの概念図
EVMの概念図
出所:「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」(総務省)より

 EVMを行う場合、進ちょく把握などに工数がかかりすぎて、コストが増大する恐れがあります。そのため、ITベンダーなどの事業者は、例えば進ちょく管理を支援するソフトウェアを導入するなどして、より効率的な進ちょく把握を行うことが求められます。

■日米の政府調達におけるEVMの活用動向

 EVMのもとになったのは、1967年米国国防総省が設計した調達マネジメントツールC/SCSC(Cost/Schedule Control SystemCriteria)です。その後1998年に、米国規格協会(ANSI)が、民間への活用も考慮してEVMS(Earned Value Management System)の名称で発表しました。これが現在のEVMの標準となっています。

 政府調達に関しては、近年米国で、EVMを連邦政府全体に普及させようとする動きが本格化しています。例えば、2005年4月に行政予算管理局は連邦政府の各機関のCIO宛に、EVMの導入の推進を求める覚書を発表し、同年12月には米国CIO評議会がEVMに関連したポリシーフレームワークを公開し、連邦政府の各機関がEVMのポリシーを作成することを支援しています。これらの動きに伴い、入札案件には、EVMによる進ちょく報告を義務付けるものが増えてきました。

 一方、日本においては、2000年3月に、総務省、経済産業省、財務省が事務局となって運営した「情報システムに係る政府調達府省連絡会議」で、「情報システムに係る政府調達の見直しについて」という報告書が了承されました。その中に、情報システムの企画・調達の適正化を図る施策の一つとして、EVMが挙げられています。同年には政府調達におけるEVM導入のための手引きとして「EVM活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライン」(情報処理推進機構。当時は情報処理振興事業協会)が公開されました。

 2004年には、経済産業省は他省庁に先駆けて、EVMによる進ちょく報告を入札条件としました。最近では、2006年3月に「各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議」で決定された「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」には、EVMによる進ちょく管理が盛り込まれています。