どうしてADSLは上りと下りの伝送速度が違うの?

(イラスト・アニメーション:岸本ムサシ)

  今回の回答者:
小畑 至弘
イー・アクセス
専務執行役員兼チーフテクニカルオフィサー

 最近はADSLもかなり高速になりました。下りなら最大速度50Mビット/秒のサービスがあります。ただし,上りは最大5Mビット/秒と下りの10分の1です。確かに上りと下りで差が大きいですね。

 では,なぜ上りに比べてこんなに下りが速いのでしょう。それは元々,ADSLがビデオ・オン・デマンド(VOD)で使うことを想定して開発された技術だからです。

 VODは,ユーザーが好きなときに好きな映像を見られるようにするサービスです。上り方向はどの映像を見たいかという指示や制御情報を送るだけなので流れるデータ量が少ないのですが,下り方向は映像を配信するので大容量のデータが流れます。そのため,上りの速度よりも下りの速度を優先したのです。

 ADSLでは,ディジタル・データをアナログ信号に変換し,銅線ケーブルに流して通信します。1本の銅線ケーブルで上りと下りの通信を同時に行うには,銅線を流す電気信号の周波数帯域を,周波数の高い方と低い方の二つに分けて,上り用と下り用に割り当てなければなりません。このとき,下りの速度を優先して,ADSLに使う約1MHz幅の周波数帯域のうち上りが1,下りが9の割合になるように分けました。

 周波数帯域は上りに低い方,下りに高い方を割り当てています。周波数は高い方が電気信号が途中で減衰して遠くまで届きにくく,低い方が安定して伝送できるという性質があります。VODの場合,上りに流れるのは制御情報など確実に届かなければ困る信号です。ですから安定した低い周波数で送るようにしました。下りに割り当てられた高い周波数の信号は途中で減衰しますが,帯域幅を広くとっているので,それでも高速の通信が可能なのです。