ゲーム機の著しい高性能化が,ゲーム開発の技術的な制約をほぼ取り払った。ゲームはアイデアや発想,シナリオなどで勝負する時代に入っている。スクウェア・エニックス社長であり,コンピュータエンターテインメント協会会長を務める和田洋一氏はこれを「ゲーム産業の第2ステージ」と表現する。同氏はゲーム業界がさらに飛躍するには,新しい人材や異業種との交流が重要だと説く。
(聞き手=ITpro発行人 浅見直樹,構成=ITpro 武部健一,写真=栗原克己)

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スクウェア・エニックス 代表取締役社長 コンピュータエンターテインメント協会 会長 和田 洋一氏
 スクウェア・エニックス 代表取締役社長
 和田 洋一氏

国内のゲーム産業は踊り場に差し掛かっていますが。

 踊り場と言いますとネガティブなイメージを与えかねませんが,そうではなくて,ゲーム産業がビックバンのように“バンッ”と勃発したのが20年,30年前(*1)。そこからだいたいの消費者の手元にゲーム機が行き渡った状態ですね。地域的にも日本に始まり,米国にも広がり,欧州も追従して来た。いわゆるゲーム機ではなくてオンライン・ゲームという形で韓国が先陣を切り,中国にも波及している。これまたゲーム機ではありませんが携帯電話のゲームという形で南米やインドでブームになっている。ものすごいエネルギーで世界中に行き渡って普及しました。

 ゲーム産業が誕生したときに「あり得るだろう」と思われていたものが大概終わったのです。それぞれの技術的なチャレンジもだいたい乗り越えた。そういう意味では踊り場といえますが,別の表現なら次の成長軌道に乗るための節目とも言えます。

 例えば絵の話で言うと,記号的な表現だったのがだんだん実体に近いものになってる。今回,「ニンテンドーDS」(NDS)用の「ファイナルファンタジーIII」(FF3,*2)を出しましたが,昔,ファミコン用に発売していたときも,このイメージ(NDS用FF3のイメージ)がクリエータの頭の中にはあったんですよ(写真)


左が1990年にファミコンで出たFF3 右がこの8月に発売されたニンテンドーDS版FF3
(C)SQUARE ENIX CO., LTD. 1990, 2006
左が1990年にファミコンで出たFF3 右がこの8月に発売されたニンテンドーDS版FF3

 すぎやまこういちさん(*3)はもう何年もドラクエ・コンサート(*4)を開いていますが,「よく譜面にできましたね」と言われると「ゲームの中ではビープ音(*5)だけど,僕の中では最初からオーケストラが鳴っていた」とおっしゃるそうです。だから「ドラゴンクエスト5」のリメーク版ではフル・オーケストラの音楽を入れました。

 映像にしても音楽にしてもシナリオにしても,ゲームが登場したときにやりたかったこと,頭の中でイメージしていたものが,今はそのまま表現できるようになった。これまでは「ゲームで表現する」ということにいろいろな制約があって,その範囲の中で作ってきたのですが,今はほぼ制約がない状態。「では次に何をやるのか」が重要なのです。

ゲーム産業は第2ステージへ

新たな創造がないと新たな成長もないと。

 もちろんね,例えば,文学というジャンルが廃れているかというと,廃れてはいないわけです。ある到達点に達してしまったからそれで終わりかというとそうではなくて,違う軸での挑戦が可能になったのですね。

これからの成長のためにゲーム業界はどう変わるべきでしょうか。

 まず一つは,ゲーム業界は「第2ステージ」に入ったことを自覚すべきですね。(映像や音楽などは)もうこれだけできるのですから,「さてどうしましょうか」と。

 もう一つは,いわゆるゲーム業界の人ではない人をどうやって巻き込むかですね。これはクリエイティブなコンテンツを創るという点でも,新しいビジネスを立ち上げるという点でも大切です。

 クリエイティブの観点で言うと,ゲームとは全然関係のなかった,日本画家の方に絵を描いてもらうとか,直木賞やノーベル文学賞を取っちゃうような人にシナリオを書いてもらうとか,あるいはネットワーク技術で世界トップの人にオンライン・ゲームを作ってもらうとか,そういうことです。ビジネスでも同様です。全然関係のない分野から超一流の人が来ると産業全体の質が変わってきます。そのすそ野をどれくらい広げられるかですよ。そうするとものすごく活性化すると思います。

 他の産業もそうなんですよ。自動車産業だって機械から始まって,そのうちエレクトロニクスの塊になって,今はいかに車内の空間を演出するかが重要になってる。通信も,日本電信電話公社には一流の,非常に賢い,日本の上澄みの通信技術を持った人が入った。それでずっと伸びてきたのですが,今,NTTドコモに誰が入るかというと「iモード」とかライフスタイルとしての携帯電話を考える人が関与していますよね。全然違った人が入ることで成長してる。ゲーム業界もそういうイメージです。