■商談や会議・ミーティングにおける上手な会話の仕切り方について解説する「会話を仕切る編」第2回。ただ相手の言うことに「そうですね」と同意するだけでなく、相手の心を動かす相槌の仕方をお教えしましょう。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 前回「承認」という概念を取り上げた。相手に自分の話をしっかりと聞いてもらったうえで、前向きに評価してもらうこと。言ってみれば「うん、そうだよね」とか、「よくがんばったね」とか、「Yes」の相槌を打ってもらうことだ。

 最近は主にコーチングなどで、この「承認」という言葉がよく使われるようになってきた。マネジメントの世界では「承認」に準ずる概念は昔からあったのだが、世の中全体がどこか癒し系になってきたのに合わせて、改めて市民権を得てきたのかもしれない。

 「承認」は別にマネジメントやコーチングの世界だけの話ではない。これは日常のコミュニケーションの中で誰もが基本的に望んでいることだ。誰しも相手に否定されることを望んでなどいない。

 「Yes」はとても美しい言葉だ。会話に平和をもたらす潤滑材と言ってもいい。ひとこと「Yes」を発するだけでお互いの理解が深まり、共感や信頼が生まれることがある。ジョンとヨーコの出会いも「Yes」という言葉が導いた。

 しかし、大切なのはYesではなくBecauseなのだ。

大切なのは肯定することではなく『理由』

 知り合いに占い師がいるが、彼女曰く「占いにやって来る人のほとんどは自分がどうしたいかということが決まっている」らしい。占い師にただ「Yes」と言ってほしくて来るのだ。占い師の仕事は見えない未来を見透かすことではなく、客が「Yes」と言ってほしい答えを探り当て、それに説得力のある『理由』を与えることなのだ。

 占いの場合その『理由』がしばしば『運命』という反論しようのないものになるので、最強の説得力を持つわけだ。

 「Yes」に理由を与えられる人は、会話や議論を支配することができる。私はファシリテーションの仕事を通じて数多くの会議というものを見てきたが、会議でもっとも貢献したという印象を与えるのは、結論として採用された意見を出した人ではなく、その意見にみんなが同意しやすい『理由』を与えた人なのだ。

 たとえば要件定義の検討会議をしていたとする。

Aさん 「この部分の開発は、今回は優先順位が低いと思います。当面は運用で対応するとうい方法ではどうでしょうか。」
Bさん 「そうだね。僕も以前似たような業務を経験したけど、いったん運用で回してみて、それから改めて要件をつめた方がうまくいったね」
皆、Bさんにパチパチ・・・。
Aさん 「オレが言った意見じゃん!」

 このような行為を私は「積極的同意」あるいは「創造的相槌」などと呼んでいる。

 会議で意見がまとまらないのは、適切な意見がなかったり、支持すべき意見が分かれたりするからではなく、いずれかの意見を支持すべき説得力のある理由が見出せないときなのだ。その理由を与えることができた人は、最後においしいところを全部持っていってヒーローになれる。

積極的に同意することで相手も積極的になる

 商談でもそうだ。相手の話にただ「おっしゃる通りですね」などと肯定的な相槌をしていても、人は大して満足してくれない。

 「なるほど。確かに私の経験でも思い当たることがありますね。それはなかなか本質をついた考え方ですね」などと、自分の言葉でちゃんと理由を示してあげて同意する。そうすることで相手は会話にとても積極的な気持ちになる。

 単なるリップサービスではなく、自分の価値をちゃんと認めてもらえていると感じ、相手に信頼感を持つのだ。そうなるとこちらも相手の同意を得やすくなる。そうして商談のイニシアティブをとれるようになるのだ。

 会話を仕切るためには、饒舌さや気の利いた話術は必要ない。適切な場所で適切なツッコミを入れられること。要はツッコミのうまい人が会話を仕切れるのだ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。