クレディスイスファーストボストン証券株式調査部アナリスト 福川 勲 氏 福川 勲 氏

クレディ スイス ファースト ボストン証券 株式調査部アナリスト
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、大和総研を経て現職。現在、情報サービスセクターの株式調査を担当。

 上場各社の2006年3月期第3四半期決算がほぼ出そろった。過去数年頻発していた不採算案件発生などに起因する業績下方修正は、主要企業の間では観察されず、改めて情報サービス市場の回復が確認できる結果であったと我々は捉えている。しかし、同じ情報サービスセクターでもセグメントごとに見ると、その業況は一様ではない。過去数年とは異なる明快な傾向は「復調著しいソフト開発会社」と「低調なパッケージソフト会社」というものだ。

 単価下落や不採算案件の頻発など厳しい市場状況が続いてきた受託開発市場の回復が顕著である。「特定サービス産業動態統計」では、11月の受注ソフトウエア売上高は前年同月比9.9%増と過去3年間で最も高い伸びとなった。12月は前年同月比0.2%減と微減に転じたが、第3四半期後に行った訪問取材では各社の受注状況は好調であり、先行きの見通しも概して明るかった。

 この背景としては、業界再編に伴うシステム統合特需に加え、バックログ案件の消化に伴う情報化投資が活発化しつつある金融業や、ナンバーポータビリティ制度や新規参入に伴う情報化投資が行われつつある通信業の寄与が大きい。両産業においてはパッケージソフト利用よりも一品生産的な受託開発が選好される傾向が強く、受託開発市場の回復を牽引している。

ソフト開発単価が一部で上昇

 こうした中で重要な変化は、「単価下落の収束と部分的な単価上昇」である。需要回復に伴って技術者のひっ迫感が強まっていることが大きな理由だ。特に金融向けアプリケーション開発や組み込みソフトなどの一部の領域で部分的に受注単価の上昇が見られるようになっている。

 現在、来年度の単価交渉が始まりつつあるが、来年度はより広範なセグメントで単価上昇が起こると我々はみており、ソフト開発を大量に外注している大手システムインテグレータにとって外注単価の上昇が業績面でのリスク要因として浮上する可能性もあるだろう。

 逆に、足元業績が弱いのが会計、人事などのバックオフィス系パッケージソフト会社である。大企業市場を中心に展開しているワークスアプリケーションズ、中堅企業が中心のオービック、中小企業向けのオービックビジネスコンサルタント(OBC)などのうち一部は会社計画に対する進捗は思わしくなく、今期業績は計画未達となる会社もありそうだ。こうした企業は、景気低迷時にはコスト削減を目的とした情報化投資に主眼が置かれていたため、順調に業績拡大を果してきた。だが各社の今期業績を見ると、1つの踊り場を迎えているようだ。

 この背景にあるのは、日本企業の情報化投資が過去数年間の「コスト抑制」を目的としたものから売上高拡大や他社に対する差異化といった「攻めのIT投資」にシフトしつつあることではないかと考えている。加えて、中小企業向け市場では2006年中にも市場投入されるWindows Vista対応製品の発売を控えて、既存顧客からの更新需要が鈍っていることも響いているとみられる。

 この「ソフト開発会社好調、パッケージソフト会社低調」という過去2、3年とは逆転した構図は少なくとも2006年中は変わらないのではないかと考えている。