アイ・ティ・アール(ITR) シニア・アナリスト 金谷 敏尊 氏 金谷 敏尊 氏

アイ・ティ・アール シニア・アナリスト
大手ユーザー企業に対してIT戦略立案やベンダー選定などへのアドバイスを提供する。ITインフラ、システム運用、セキュリティ分野を専門に幅広く活躍する。

 最近はやりのアーキテクチャという言葉も建築業界から派生したといわれるように,IT業界は建築業界と対比されることが多い。とりわけ共通するのは,IT業界も建築業界も,ゼネコン型の階層組織を作り,連続する再委託により大型案件を処理する点であろう。違うのはIT業界の場合,複合組織の構成をベンダーの資本関係,つまり子会社や関連会社で固めることが多い点だ。

 しかし,今日の情報システムはシステム構成が複雑化し,多様な事業者が乱立している。このため,特定のベンダーが,資本関係のない他のベンダーと会議の席を共にする機会も増えてきている。そうした中でイニシアチブを発揮できるかどうかは,ベンダーにとって後々の販売戦略上,重要な意味を持つことになる。

 ユーザー企業からすると,事業部単位でシステム構築を発注する,あるいはプロジェクトごとに事業者を選定する機会は多く,どうしても不特定多数のベンダーと付き合うこととなる。アプリケーションやシステムコンポーネントが独立して,責任境界線が明確であればよいが,大抵はそうはいかない。システムの構築と保守で事業者が違う場合やシステムを連携する場合などに,齟齬そごが起きやすい。

 こうした背景から,ベンダー数の増加による管理負荷の増加率は決して単調ではなく,むしろ指数関数的である。なかには,100社を超えるベンダーと付き合う企業もあるが,そうなると委託業務の棚卸しをするだけでもプロジェクト化を要する。このような企業が,なんとか委託先を集約したい,プライムコントラクタをつけてそこに煩雑な管理を委譲したいと考えるのは自然な流れといえる。

 このような課題を抱える企業は,管理機能を含めた包括委託を視野に,ベンダーのPMO(プログラム・マネジメント・オフィス)やVMO(ベンダー・マネジメント・オフィス)としての能力を評価する傾向がある。つまり,複数のベンダーを取りまとめて主導する能力が大きな評価ポイントとなる。しかし,これには業務知識や技術力もさることながら,管理プロセスのモデル化や標準化が必要だし,現行プロセスの棚卸やドキュメンテーションといった泥臭いニーズにも対応しなければならない。ただ案件を横流しするのではな,プロセスを統括管理することで,一定の成果を約束することは常に求められることだ。それには何よりも,リーダシップを発揮できる優秀な人材が必要だ。

 戦略アウトソーシングによって合弁会社を設立した実績はひとつの評価材料になる。パートナー会社や協力会社を管理した実績についても,しかりだ。中小規模ベンダーであっても,協力会社を100社持つのと2社しか持たないのとではマネジメント能力の差は歴然としている。

 ベンダーマネジメントの重要性に気付き,手を打つ事業者は決して多数派ではない。一方,技術の空洞化と人材不足が慢性化し,委託先が乱立するなかで,大企業を中心にベンダーの集約化や統括管理の需要は増加する傾向にある。ベンダーマネジメントの強化は,受注拡大を目指すソリューションプロバイダの一手となろう。そして,建設業界と同様に,様々な局面で,管理する側はされる側より有利であることも忘れてはならない。