前編では,ベンダーが提案書を作るときの舞台裏を紹介しながら,良い提案書を引き出すコツとしてユーザーが提案書作成作業に積極的に協力することが重要だという話をしました。後編は,前編で提示した演習問題に対する解答例を示し,実践的なベンダー選定プロセスについて考えてみましょう。最後に,選定後にも複数のベンダーと良好な関係を結ぶコツを解説します。

木村 哲
ビーコンIT コンサルティング部 部長 兼 チーフコンサルタント

 前編の最後に,三つの演習問題を出題していました。まずはその解答を説明していきましょう。ポイントは,その選択肢通りにユーザーが動いたとき,ベンダーがどう反応するかを考えることです。唯一の正解があるわけではありませんが,同じようなシチュエーションに直面した際のヒントになるはずです。

演習問題1

ベンダーへのRFPの提示と説明を行うタイミングとして,最も不適切と思うタイミングは以下の三つのうちどれでしょうか?

(1)10月21日(金)10:00から
(2)10月21日(金)16:00から
(3)10月24日(月)10:00から

 RFPの提示を受けたベンダー営業担当者は,会社に戻ってから提案書作成の手配に取り掛かります。もし月曜日の午前中にRFPを提示すると,手配は月曜日の午後からとなってしまい,その直前の週末が無駄になってしまいます。月曜日にRFPが完成するというぎりぎりのスケジュールでない限り,前週の金曜日に提示したいところです。

 もちろん,ベンダーが週末をフルに使って提案を考えるとまでは期待しません。ただし,社内調整がある程度進んだ状態で週末を過ごすのと,何もない状態で過ごすのとでは,月曜日からの作業効率に差が出てきます。このような理由から,RFPを提示するタイミングとして最も不適切なのは「(3)10月24日(月)10:00から」と考えます。

 「(2)10月21日(金)16:00から」は,ベンダーが提案の内容を考えるのに週末を使えます。したがって(3)に比べればマシですが,現実的にそれは期待しにくいでしょう。金曜日の夕方にRFPを提示されても,ベンダーの営業担当者が会社に戻ってから提案書の作成を手配する時間はほとんどありません。下手をすると営業担当者は自宅に直帰してしまうかもしれないのです。

 私なら,「(1)10月21日(金)10:00から」をRFP提示のタイミングに選びます。金曜日の午前中であればRFPを受け取ったベンダーの営業担当者は,午後いっぱいを提案書作成の役割分担を決めるなど,手配のために使えます。提案書作成にかかわる人たちが,各自の役割を理解した状態で週末を迎えられれば,時間が無駄に使われることはないでしょう(図1)。

図1●RFP提示に関するポイント
図1●RFP提示に関するポイント