最近,特に目立つのが見積もりミスによる開発コスト/期間オーバーである。受注優先の考えから営業部門の判断で,無理な価格,納期,不利な条件で受注,契約されやすい。結果として納期に間に合わず,稼働後のトラブルも多く発生する。

見積もり審査会を設置する

 見積もりミスは,マネージャの努力ではどうにもならないことが多い。全社的な取り組みが不可欠だ。見積もりミスが起きる最大の理由は,営業部門の独断を許す体制である。これを回避するには,社内体制の整備と,その運用にかかっている。

 社内の体制としては,見積もり審査会を設置するのが望ましい。プロジェクトが大規模になるほど,リスクの範囲が拡大,多様化するため,個人や担当組織のみでは判断しきれないからだ。担当者からの見積もり提示や安易な概算見積もりの提示をなくすのが,最優先である。

 見積もり審査会のメンバーは,理想的には以下の5つの部門で構成する。

(1)プロジェクト部門(総責任者,プロジェクト・マネージャ,各リーダー)


図8●契約内容チェックリストの例
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 →プロジェクトを客観的に見るためのチェック・リスト(図8)を作成し,成功の可能性やリスクの存在をプレゼンテーションする。

(2)経営層

 →最終的な受注可否の判断を行う。

(3)第三者レビューア(技術的なスキルの高い人)

 →技術的な観点で,受注可否を経営層に提言する。受注のための技術的課題,条件を明示する。

(4)間接部門(経理,購買,外注管理,保守部門などの各代表)

 →経理は予算,見積もり根拠,検収条件を,購買は購入品を,保守は納入後保証要件を確認する。

(5)品質保証部門(受注可否の権限を持つ責任者,プロジェクト担当事務局を兼ねることが望ましい)

 →主に品質の観点から受注可否を経営層に提言する。受注拒否と判断した場合は,その理由と受注のための条件を明示する。

チェックリストを作る

 審査に当たっては,プロジェクト部門がチェックリストを事前に準備しておき,見積もり審査会の材料とする。チェックリストは,当初は文献等を参考に,自社の過去の失敗事例や経験の豊富な技術者の意見を反映して,自社オリジナルを作るとよい。

 見積ミスで失敗するパターンと,その対処法は以下の通りである。

(1)システム規模を見誤る

 対策:複数者で見積もりを行い,差異を分析して見積もりに反映する。またFP法*9などの見積もり手法を適用し,客観的な根拠を明確にする。

(2)リスク見合い分を加算しない

 対策:リスク見合い分を確保できるように経営層に提言する。

(3)協力会社の見積もりをそのまま計上する

 対策:見積もり根拠を明確にする。

(4)自社の開発範囲しか考えない

 対策:想定される付帯作業(運用テスト支援やユーザー教育など)を明確にして,考えられるすべての見積もり要素について算出する。

(5)ユーザーの予算をそのまま見積もりにして,差額は努力目標にする

 対策:盲目的なユーザー満足でなく,正しい見積もりを行い,努力目標を的確に設定する。

町田 仁司
松下電器産業 パナソニック システムソリューションズ社
品質・環境グループ 主任技師