中国製品に押される日本のタオル業界のリーダーとして商習慣の近代化や情報化に積極的に取り組むも、取引先の破綻であわや連鎖倒産という憂き目にさらされた。高級ブランドのライセンス生産から自社ブランド商品に軸足を移し、環境を重視した製品がヒット、ファンをつかむ。


●池内タオルの会社概要と沿革
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環境への負荷を低減しつつ、洗練されたデザインや豊富なカラーバリエーションを実現した「風で織るタオル」は顧客の支持を得て販路を拡大している(クリティカル・パス店内にて)
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 東京・渋谷の三越恵比寿店に出店する雑貨店「クリティカル・パス」。環境に負荷をかけず、かつファッション性や使い勝手に優れた商品を、吉田芳子チーフが厳選して買い付ける。

 中でも吉田チーフがほれ込むのが「風で織るタオル」。風力発電を利用することで二酸化炭素を削減するなど環境に配慮するうえ、美しい発色や洗練されたシンプルな柄などデザイン性にも優れる。「エコロジーに特に関心のないお客様がデザインを気に入り、あとで環境に配慮した商品だったことに気づくことも多い」と吉田店長は話す。

 「風で織るタオル」を企画、生産する池内タオル(愛媛県今治市)は、独自性のある商品で成長する元気な中小企業の代表として、小泉純一郎首相が訪問し、施政方針演説で引用された実績も持つ。2003年9月に主力取引先の倒産によって売掛金などが焦げ付き、現在民事再生の過程にあるが、破綻の同年に全国販売を始めた「風で織るタオル」の人気は高まる一方だ。高級ブランドのライセンス商品が主流のタオル業界で、企業ブランドを前面に打ち出して顧客の支持を集め、全国の百貨店やインテリア、雑貨の専門店から引き合いが続く。「再生法申請時に定めた売り上げ目標はクリアし、利益も出ているので、銀行への債務返済も始めている」と池内計司社長は話す。

 かつての池内タオルの主力業務は、高級ブランドのライセンスを受けたタオルハンカチのOEM(相手先ブランドによる生産)だった。2003年8月末、当時の売り上げ7億円の6割を占めていたタオルハンカチの卸が倒産し、2億4000万円の売掛金などが未収となった。池内社長は民事再生法を申請し、金融機関など債権者と、「OEMから自社ブランドに軸を移し、3億5000万円の売り上げに育てる」という再建計画で合意する。

OEMの利益で自社ブランド育成

 当時「風で織るタオル」はごく一部の百貨店で扱うのみで、販路を全国の百貨店や専門店に拡大しようとしていた矢先に取引先の破綻に見舞われた。しかし扱いを予定していた小売店のほとんどは当初の計画通り取引を求めた。

 中小企業の自社ブランド商品が注目と期待を集めたのはなぜか。その鍵は商品コンセプトとマーケティングのユニークさにある。

 「風で織るタオル」の開発が始まったのは1997年のこと。「認知度のないブランドでファンを獲得するには、品質はもちろん、明確なコンセプトが必要だ」と考えた池内社長が選択したのは、「環境に優しい」というコンセプトだった。

 既に80年代にエコマークのブームがあり、主要なタオルメーカーは軒並み「環境負荷低減」をうたっていた。しかし、蛍光剤を使用しないなどの条件を満たせば比較的容易にエコマークを取得できるため、池内社長は「より厳しい基準で環境対応を極めたタオルを作れば、環境に関心の高い顧客を取り込める可能性がある」と考えた。そこでISO14001などの認証取得、商品安全性テストの国際機関「エコテックス」での最高評価獲得などに取り組み、2002年には秋田県の能代風力発電所と契約を結び、使用電力を100%風力発電でまかなうグリーンパワーに切り替えた。

 原料や製造プロセスにもこだわった。例えば日本で「オーガニックコットン」の認定を受けるには、認証機関の検査をパスした畑で収穫された綿花を利用することが条件だが、池内社長は綿花を綿糸にする紡績工程にまで踏み込んだ。欧州で認可された紡績工場のみを利用して、紡績工程で原料が混在しないよう配慮している。

 こうしたこだわりの結果、「風で織るタオル」の製造コストは一般的な綿タオルの5倍に跳ね上がった。ここまでこだわれたのは、当時タオルハンカチで十分な利益が得られていたからだという。