本連載第5回でiPod用のLinuxを紹介したが,音楽に焦点を当てた「Rockbox」というオープンソースでフリーのファームウエアがある(図1)。Rockboxは,WAV,MP3,Ogg Vorbis,FLAC,WavPack,AC3,AAC(128kbpsまで),Apple Lossless,の各ファイル形式を再生できる。WMAには対応していない。詳細はWebサイトにある。


図1●Rockboxの起動時に表示されるロゴ

 iTunesの管理下にあるMP3とAACの曲も再生できる。iPodのオリジナルの状態と,Rockboxの音質を比較すると,明らかにRockboxの音質が向上しているのが分かる。この音質の差は,iPodに付属したインナーイヤー・タイプのヘッドフォンではなく,大口径のヘッドフォン,例えば「audio-technica ATH-AD300」のようなものを使うと,差がよりはっきりする。オーディオ・ファイルのデコードに関係するファームウエアを改良しているそうだ。ビデオは再生できない。

 ギャップレス再生(曲の切れ目なく次の曲を再生する),5バンド・パラメトリック・イコライザ,細かい音量調節,再生画面とユーザー・インターフェース画面のカスタマイズ,クロス・フェイド,JPEGとテキストの表示,ゲーム「Doom」,リアルタイム・クロック,ID3タグ・データベースのカスタム設定,音声によるメニュー(米語,英語,仏語,独語),ブックマーキング,アプリケーションやゲームのプラグインなどの機能がある。

 Rockboxはベータ版として提供されているため,電池寿命に関する最適化はまだ行われていない。Appleのファームウエアよりも電池の減りは早いが,最終版では最適化される予定だ。インストールの詳細は次回に紹介するが,Rockboxは,iPodオリジナルのファームウエアとデュアル・ブートできるようにインストールすることもできるし,iPod Linuxを加えたトリプル・ブートも可能である。Rockboxが対応している機種は以下の通りである。

・Apple:iPod 4G(グレー・スケールとカラー),5G(ビデオ),Nano,Mini 1G,Mini 2G。iPod 3Gは開発中
・iRiver:H100とH300シリーズ
・iAudio:X5(X5VとX5Lを含む)
・Archos:Jukebox 5000/6000,Studio,Recorder,FM Recorder,Recorder V2,Ondio

 Rockbox iPodに音楽ファイルを登録するには,ディスク・モードでiPodをPCに接続し,ファイルをコピーするだけでよい。整理するために,アルバムごとにフォルダを作るとよい。つまり,Rockboxを使用するとiTunesを使わなくてもよくなる。

 Rockboxを起動するには,MENU+SELECT(中央のボタン)を5秒程度押す。すると次回に説明するLoader2が表示されるので,Rockboxを選択する。Rockboxを終了するにはPlayを長押しする。

 Rockboxが起動すると,File Browserが表示され音楽ファイルが入っているフォルダが表示される。そこで,再生するアルバムを選択し,SELECTを押してフォルダの階層を降りる。トラックのファイルを選択しSELECTを押すと再生が始まる。MENUを押すと各種設定ができるMain Menu画面に変わる。

 再生画面(While Playing Screen)のカスタマイズが可能で,各種のWPSがアップロードされている。ほかにもhttp://www.rockbox.org/twiki/bin/view/Main/WpsIriverH300?skin=printにWPSがアップロードされている。

 図2は,iCatcherというWPSの画面である。写真のところにアルバム・アートを表示できる。ID3タグの演奏者名,曲名,経過時間,演奏時間,ビット・レート,サンプリング周波数,圧縮コーデックの種類などが表示されている。


図2●iCatcherの画面

 iCatcherを動かすには次のパッチが必要である。これらのパッチを当てるには,Rockboxをコンパイルする環境が必要である。その詳細はWebサイトにある。

Album Art patch v.3.3 or more
Scrolling Margins Patch
EQ WPS tags patch v.1.0 or more

 WPSのファイルは,iPod内のどこにあってもよい。ファイル名は24文字以下で,ファイル拡張子は「.wps」である必要がある。「/.rockbox」フォルダにあれば,リブートしても同じWPSをロードする。WPS画面を変更するには,Main Menuの「General Settings」-「Display」-「Browse .wps file」で選択する。WPSを作成する方法は,マニュアルの100ページから記述されている。

空間的情報をより自然に再生

 「Main Menu」-「Sound Settings」にある「Crossfeed」は,ヘッドフォンで聴く場合,よりスピーカで聴くのに近いように設定してくれる。スピーカで聴く場合,左右の耳に左右チャネルの音が到達する時間にづれがあり,左のスピーカの音は,左耳より遅れて右耳に到達している。これにより音の来る方向を認識している。ヘッドフォンで聴くと,左耳は左チャネルだけを,右耳は右チャンネルだけを聴くことになる。空間的情報が正しく再現されず,不自然な音に聴こえてしまう。Crossfeedは,右(左)チャネルの音に遅延とフィルタを加えたものを,左(右)チャネルに加え,空間的情報をより自然に再生する仕組みである。

 「Sound Settings」にあるEqualizerは,パラメトリック・イコライザであり,通常のイコライザよりも細かい設定ができる(図3)。


図3●パラメトリック・イコライザ