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記者のつぶやき

電子申請「オンライン利用率50%」の功罪

黒田 隆明=日経ガバメントテクノロジー 2006/09/07 日経BPガバメントテクノロジー

 外務省は先月末,9月いっぱいでパスポートの電子申請を停止する決定を下しました(外務省の発表はこちら)。直接の契機は,財務省の指摘(「予算執行調査(平成18年度)」)だったようですが,今年1月に策定された「IT新改革戦略」が外堀を埋めたと言ってもよいのではないでしょうか。日本の国家IT戦略であるIT新改革戦略では,「国・地方公共団体に対する申請・届出等手続におけるオンライン利用率を2010年度までに50%以上とする」という目標を掲げています。そして,パスポートの電子申請利用率の低さは財務省にも指摘されています。

 IT新改革戦略に掲げられたこの「50%」という数字は,しばしばマスコミをはじめ各所でクローズアップされます。このように具体的な数値目標を設定することで,“使われない電子申請システム”を抱える各省庁はプレッシャーを感じるでしょうし,具体的な改善のアクションを起こす契機にもなるでしょう。

 そうした効果を認めたうえで,筆者は今回,あえて懸念を差し挟んでみたいと思います。それは,利用率向上のみが注目されることで,本来の目標である「世界一便利で効率的な電子行政」(IT新改革戦略より)が,ともすれば忘れられてしまいがちになってしまうのではないか,ということです。言い換えると「手っ取り早く利用率をアップできそうな申請手続き」の対策ばかりが優先されてしまうのではないか,という懸念です。そうなってしまうと,住民の利便性向上は限定的にならざるを得ません。各省庁や自治体が個別の申請についての対策を講じても,電子申請手続きそのもののユーザビリティ~住基カードや公的個人認証からWebの画面遷移まで,指摘されている課題は多い~は,向上しません。また,省庁横断で,さらには民間企業・団体と協力しながら添付書類削減に取り組む,といった抜本的な業務改善推進の機運も起こりにくいのではないでしょうか。個別最適が全体最適を阻むという理屈です。

 実際,ある電子政府関係者はこう嘆いていました。「利用者からの要望が来なければ,現状のままの使い勝手でよいという風潮がある。そもそも電子申請の利用者自体がほとんどいないのだから,要望が来るはずもない」「組織間で横の連携をとって申請システムを作ろう/改良しようという発想は,現在でもほとんどない」。

電子申請の2007年問題をどうする?

 個別の「利用率向上」を優先することで「利便性向上」の推進が後手に回ってしまう懸念の一例として,退職関連の行政手続きについて見ていきたいと思います。2007年以降の数年間,団塊の世代が大量に定年退職となります。ECOM(次世代電子商取引推進協議会)が昨年12月に実施した「退職手続に係わるニーズ調査」では,いわゆる「2007年問題」に付随して退職関連の申請数の急増が予想されることから,関連手続きの早急な電子化と利便性向上策の推進が提言されています。

 例えば,会社員が退職時に必要な「老齢給付裁定請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書)」という手続きがあります。厚生労働省の「オンライン利用促進のための行動計画」によると,この「国民年金・厚生年金保険老齢給付裁定請求書」の手続きについては,「利用率の目標等今後の進め方について改めて平成18年末を目途に結論を得る」となっています。「個々の事案に応じた窓口での相談や確認が必要であるなどの課題がある」などの理由から,対策は“後回し”となっているわけです。

 確かに,「老齢給付裁定請求書」の申請は,オンライン利用率を向上させるのは難しそうです。まず,住民票の写しをはじめ,利用者が取り寄せなくてはならない紙の添付書類が多いので,このままでは電子申請に向きません。そして,この手続きは「退職者が退職時に1回だけ行う手続き」であり,そのために電子申請の手順をわざわざ覚えてくれるとは考えにくいという要素もあります。利用率向上を目指すなら,もっと成果が上がりそうな他の手続き(退職者関連の手続きでいえば「雇用保険被保険者資格喪失届」など)の対策を優先して進めるのが,正しい選択といえそうです。

 しかし,「オンライン利用率向上」ではなく,「便利で効率的な手続きの実現」という観点から考えると,違った結論も導き出せます。まず言えるのは,複数ある添付書類を1つでも減らすことができれば,申請する利用者も受理する行政側も作業負担はそれだけ軽減されるはず,ということです(たとえオンライン利用率が向上しなくても,添付書類が減れば効率は向上します)。ECOMで電子政府・ビジネス連携WG主査を務める安達和夫氏は,老齢給付裁定請求書の手続きに関して「基礎年金番号を確認するために年金手帳を添付させるているが,こうした添付は省略の方向で検討すべき」と指摘しています。「手続きが便利で効率的になること」を目標とするなら,2007年に向けて,退職関連の行政手続き全体について添付書類削減の早期実現を目指すべきでしょう。ちなみに,電子政府先進国と言われる韓国では,添付ファイルと手続き自体の削減を目標としています(関連記事)。

 さて,8月末に各省庁の来年度予算の概算要求が出そろいました。ITについての要求内容については,「世界一便利で効率的な電子行政を目指す」という本質的な視点からきっちりとチェックしてほしい,と思います。IT新改革戦略による新しい電子政府戦略が始動しはじめた今年にそれをやらないと,戦略で示した目標達成も難しくなるでしょう。逆に言えば,政府は今こそ,IT新改革戦略の方向性と本気度を示す絶好の機会だと言えるのではないでしょうか。

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