NTT持ち株会社の雄川一彦 第二部門次世代ネットワーク推進室ネットワーク戦略担当部長に,参加を予定する事業者から噴出している疑問をぶつけた。インタビューは8月4日に実施。

――インタフェース接続条件を公開したあとの反応をどうとらえているのか。

 業界団体に説明に回っているところだ。具体的な質問はそれほどないが,関心は高いと感じている。公開したインタフェースは「資料」と称しているが仕様書と考えてもらっていい。これでNGNがどういうサービスを提供できるネットワークなのかが分かるようになっている。細かい実装には,別途詳細資料が必要だが。

――映像配信にSIPを使うことに対して違和感を持つ事業者が複数いる。

 SIPは,その名の通りセッションを設定するプロトコル。音声に限定されているわけではない。セッションが張られたとネットワーク側で把握しないと帯域制御はできない。それを認識するためにNGNでは,音声だけでなく映像配信にも使うことにした。

 「なぜ映像配信にまでSIPなの?」という問いについては,現時点で映像配信用のプロトコルにはセッション管理できるものがない。ネットワーク側に「映像配信でセッションを張りますよ」と教えてくれるプロトコルはSIPしかない。まだ世界標準ではないが,非標準になるとも考えられない。SIP以外でも,映像配信のセッション管理ができるものが出てくれば対応していく。

 ソフトウエアを入れ替えればすむ話なので,今回映像配信用のSIP対応にして日本のNGNが将来,世界標準から孤立することもないだろう。新プロトコル用のソフトウエアに変えればいい。ソフトを2度も作るのは嫌だと言われたらそれまでだが,とにかく今はSIPしかない。

――課金や認証,著作権管理など,プラットフォーム機能の仕様が全く公開されていない。

 まず「課金」が,何を指すのかまだ具体的でない。今回公開した仕様では見えないのは確かだが,そもそもNGNの料金さえ決まっていない。例えば,コンテンツをアプリケーション・サーバーから流す場合,課金はサーバー側で実施するはず。ネットワークの課金機能は関係はない。

 回線レベルで認証をかける「回線認証」と呼ぶ機能についてはネットワーク固有のもの。機能は用意しているが,今回の公開仕様には書いていない。それには理由があるからだ。

 NGNにおける回線認証のイメージは,今の電話でいう「発番号通知」や「発ID通知」のようなもの。回線も含めネットワーク側でユーザーを認識できる仕組みだ。これをNGNでも実施しようと思っている。ただ,この機能は,ユーザーの個人情報に直結する。通信の秘密などの問題にも関わる機能なので,そういうことを活用したアプリケーションを開発したいという参加事業者が出てくれば機能や仕様を提供していく。仕組みとしては用意してある。

 この機能をあまねくオープンにすると,セキュリティの仕組みを開示してしまうようなもので,逆に悪用されても困る。個別相談に乗るので,そこで対応する。

――NGNはセキュリティ機能も売りにしていたと思うがどういうものを用意するのか。記者会見では個別相談と言っていたが。

 基本的には個別相談になる。一例としては,処理トラフィックを適正な容量できちんと止めて,大量トラフィックによる攻撃を防ぐなど,そういうセキュリティの仕組みを用意している。

――トライアル後,国際標準との歩調合わせやトライアル成果のフィードバックなどのため,商用化前に議論の時間が必要では,という意見がある。

 先ほど述べたように,国際標準には順次キャッチアップしていく。トライアルの結果をフィードバックしなくても,国際標準は注視していくので問題ない。

 トライアル中に不具合などがあれば随時フィードバックしていく予定なので,特にトライアルと商用化の間に時間を空ける必要性は技術的にも感じていない。

――NGNトライアルで提供するサービスはIP電話と映像配信で目新しいものでもない。それ以外を提供してもよいのか。

 IP電話と映像配信はNTT側が用意するサービス。NGNでは,ユニキャスト通信やマルチキャスト通信,双方向通信機能などを実現するが,「何が通るのか」という情報まではNTTは見ていない。

 ただ,何も用途を示さずに,あれもこれも何でも流されては困るので,必要なサービスはある程度指定することにした。何度も言うが,どんなことがやりたいのか相談していただければ対応する。「こういう使い方をしたいので,このくらいの帯域は確保できるようにしてほしい」といったことも,具体的な提案なら考える。今回は,セッションの中身を決めるほんの一部を,NTTが規定したに過ぎないのだ。

――NGN用のSIPスタックを搭載した新たなSIP端末がユーザー宅に必要ではないか。周辺取材では,既にNTTが複数の通信機器ベンダーに,新しいSIPスタックを搭載したブロードバンド・ルーターのような機器の調達をかけているという話も出ている。

 もちろんNGN用のSIPスタックのソフトウエアは新しく必要になる。ホーム・ゲートウエイのようなものにそれを搭載するイメージだ。詳細は把握していないが,NTTの研究所でこうした機器の開発に着手している。トライアル開始に合わせて実用化する予定だ。

 SNIとUNIのインタフェースを今回公開したのだから,その仕様に合わせれば誰にでも作れるもの。あとは各事業者で開発してほしい。UNIの仕様に対応してくれればNGNにつながるはずなので。

――NGN内のサービスはQoSを使う通信品質とベストエフォートが選べるのに,インターネットへのプロバイダ接続は,なぜベストエフォートだけなのか。NGNとあえて差をつけたということか。

 ベストエフォートのインターネットに接続するのに,NGN部分のアクセスだけQoSをかけることに意味があるのだろうか。だから今回は,プロバイダ接続はベストエフォートだけ,とした。

 現在のフレッツ網と同様に,「PPPoE」を使ってNGNとプロバイダ網を接続するため,ここはSIPが関与しない。セッション管理ができないので技術的にもベストエフォートにしかできないわけだ。QoSをかけてコンテンツ配信などをしたければ,インターネット用とは別にSNIにサーバーを設置すればいい。

――マルチキャストがNNIを越えられない理由は。地上デジタル放送の囲い込みが狙いか。

 違う。地上デジタルの囲い込みではない。技術的に,マルチキャストをNNIを越えて実現するのは簡単でない。NNIを越えてマルチキャストを行うためには,「NNIの向こう側のネットワークの状態がどうなっているのか」という情報が必要になる。そのためには,非常に複雑な相互接続をしなければならないことになる。そこまで手間をかけてまで実現すべきことなのかどうか,というトレードオフを考えて判断した。

――NGNのコア網とアクセス網のNNIを開示する予定は。

 コア網とアクセス網のNNIの開示は,竹中懇談会でも出ていた「NTTのアクセス機能分離」の話とかかわってくると思うし,政策的な話が絡んでくる。今はなんとも言えない。ただ,少なくとも現時点では,今後もNGNのコア網とアクセス網のNNIを開示するつもりはない。

――ソフトウエア・ベンダーなどから,上位レイヤーの仕様公開が特に少なくて,このままでは新しいアプリケーション開発がしにくいという意見もある。

 アプリケーションについて,どういう要望があるのかどうか,まだ見えにくい。アプリケーション開発サイドから,「NGNを使ってこういうサービスをやりたいのだが」という要望がきたら相談にのる。そうやって対応していく。

――そもそも,公開した仕様情報の内容自体が十分でないという意見がある。

 間口を広げる意味もあるが,そもそもNGNはネットワーク。まだ出発点なので,上位レイヤー機能が充実していないのは仕方ない。ただ,SNIのサーバーとUNIの端末は連携するというのがNGNの考え方。そういう基本的な決め事の中で自由にアプリケーションやサービスを作ってもらえるように幅を持たせている。詳細に第2弾,第3弾と追加で仕様公開をしていく予定ではなく,あとは相対で個別に技術討論しながら仕様を詰めていく予定だ。

――上位レイヤーはSIPだけというのも,決めすぎで違和感がある人も多いようだ。

 レイヤー構造の図の中にSIPを入れると,SIPは上位まで関係するプロトコルなので,「上位層まで決めすぎ」と言う人はいるだろう。ただ,SIPはレイヤーの区分けの中では,そのように上位レイヤーまで関与しているように見えるが,実は通信のセッションを管理しているだけだ。SIPが監視するのはセッションであって,セッションの中身まで規定するわけではない。つまりSIPを使うからといってアプリケーションに制約を加えるものでもないということだ。

――映像配信にSIPを使うことに対して家電メーカーからの反応は。インタフェース公開後に,個別の問い合わせは来ているか。

 帯域制御できるネットワークを使ったネット家電機器は,これまでなかった。だからNGNを使う場合は,家電メーカーにとっても全く新しい試みになる。今回は少なくともSIPに対応してもらわないと使えないのは確かだ。もう既に,複数の家電メーカーと話はしている。映像配信にまでSIPを使うことに関して,抵抗があるとの印象は受けていない。

――Parlayの採用は様子見ということだが見送った理由は。

 これにはまず,SNIとANI ( application to network interface ) の違いを理解してもらう必要がある。SNIは具体的なインタフェース規定で,アプリケーション向けのインタフェースをNGNトライアル用に決めたもの。一方のANIもアプリケーション向けのインタフェース規定だが,国際的にもまだ固まっておらず議論中のものだ。だからNTTのNGNトライアルでは名称を変えて,SNIを使っている。SNIはANIのサブセットという関係と理解してもらいたい。

 そのSNIとANIの関係を理解した上でParlayの話をすると,現在,国際的に進められているANIの議論にはParlayについても触れられている。もともとParlayに関しては,固定電話しかなかった時代からずっと議論されてきたこと。それでも,実用化の事例はない。しかし国際的なNGN標準の議論の中でParlayの議論が復活してきたことも確かなので,「様子見」のような書き方にした。私見ではあるが,Parlayの実用化がうまく進むかどうかは,やはり疑問だ。