光信号を光ファイバで長距離伝送するためには,途中で信号の減衰を補う増幅器(アンプ)が必要になります。今回はWDM(波長分割多重)ネットワークなどの大容量光信号を,電気信号に変換することなく光のまま直接増幅できる,光増幅器を解説します。
光ファイバを伝わる光信号は自ずから減衰します(図1)。長距離伝送を可能にするためには,途中で光信号を増幅しなければなりません。
以前は,受信した光信号を中継器の内部で電気信号に戻し,増幅した後再び光信号に換えて送信していました。ただしこの方法では,伝送速度を高速化したい場合などに中継器の変更が必要となり,システム全体のコストがかさんでしまうという課題がありました。
このような背景から登場したのが,光信号を光のまま直接増幅できる光増幅器です。幅広い増幅帯域を持つ製品が登場し,現在では1台で10Gビット/秒を80波まとめて増幅できる機器もあります。
光増幅器は大きく3タイプある
光増幅器には大きく分けて,希土類添加ファイバ増幅器,ラマン増幅器,半導体光増幅器の3タイプがあります(図2)。
最もよく使われている希土類添加ファイバ増幅器は,コアに希土類元素イオンを添加したファイバに,励起光を入射することで信号光を増幅します。
添加する希土類元素イオンによって増幅帯域が異なります。1990年代中ごろからはエルビウムを添加したエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)*が,WDM(波長分割多重)*システムなどに多く用いられています。EDFAは,波長1.55μm(マイクロメートル)帯または1.58μm帯の信号光を増幅できます。図1のように1.55μm帯は,光ファイバの損失が最小となる帯域です。この帯域を増幅できるEDFAは,最も効率の良い光伝送を可能にします。
1.55μm,1.58μm帯を増幅するEDFA以外にも,増幅可能な波長帯を広げるために1.5μm帯を増幅できるツリウム添加ファイバ増幅器(TDFA)や,従来からの光通信に用いられる1.3μm帯を増幅するプラセオジム添加ファイバ増幅器(PDFA)の研究開発も進んでいます。
幅広い波長域を増幅できるラマン増幅
ラマン増幅器は,ラマン増幅と呼ばれる現象を利用した技術です。光ファイバに強い励起光を入射すると励起光波長より100 nm(ナノメートル)程度長い波長域に増幅が得られます。希土類添加ファイバ増幅器以上に,広い波長域で増幅できる点が特徴です。ラマン増幅を用いたシステムでは,励起光の届く数十キロメートルの光ファイバ中で,低雑音かつ分布的に増幅できます。その結果,局間光ファイバの距離が長い区間であっても,高品質な信号伝送が可能となります。
なお,ボビンに巻いた数キロメートルの光ファイバを増幅媒体とするラマン増幅器は,特にラマンファイバ増幅器と呼ばれており,研究開発も活発に行われています。
ラマンファイバ増幅器は,EDFAと比べて励起効率は低いですが,帯域は最大で約100nmと広い点が特徴です。また希土類添加ファイバ増幅器では,増幅可能な帯域が限られていますが,ラマンファイバ増幅器は任意の波長域で増幅できる点も利点です。
小型化が可能な半導体光増幅器
半導体光増幅器は,現在研究開発段階にある光増幅器です。微小な化合物半導体を増幅媒体とし,電流を注入することで動作します。
最大の特徴は,増幅装置の小型化が可能な点です。さらにラマン増幅器と同じく,幅広い波長域で増幅可能です。線形性の向上など実用化に向けた開発が進められています。
次回は同じ光部品である,平面光波回路(PLC)を紹介します。
萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長 山林 由明 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長 増田 浩次 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 |