営業担当者のフットワークが悪い,優秀な技術者がアサインされない,RFPが熟読されない,モノ売りの意図が透けて見える…。せっかく良いRFP(提案依頼書)を作っても,ベンダーから質の高い提案書を受け取れるとは限りません。提案書の質を上げるために,ユーザー側ができることを考えましょう。最後に演習問題も用意したので,じっくり考えてみてください。

木村 哲
ビーコンIT コンサルティング部 部長 兼 チーフコンサルタント

 まず質問です。ベンダー5社にシステム構築の提案依頼をして,「5社全部から質の高い提案を受け取る」のと,「1社だけから質の高い提案を受け取る」のとでは,どちらが良いでしょうか。答えは言うまでもありません。5社全部から質の高い提案を受け取り,比較検討できるほうが良いに決まっています。

 しかし,提案の質はユーザーが期待するように高いものばかりではありません。提案の質が低くなる責任はベンダーにもユーザーにもあります。良いRFP(提案依頼書)を作ることは必要ですが,それだけでは不十分です。「質の高い提案をベンダーから引き出すために,ユーザーができることは何か」。これが本セミナーのテーマです。

質の高い提案書は“良い環境”から生まれる

 質の高い提案書とはどのようなものでしょうか。図1に12項目を挙げました。まず,ベンダーがユーザーの要求をきちんと理解した上で提案していることが前提となります。業務パッケージやハードウエアを売り込もうとする意図が透けて見える提案は,ユーザー本位とは言えません。

図1●質の高い提案書の条件
図1●質の高い提案書の条件

 その上で,充実した提案内容であることが重要です。良い提案書には,システムの内容が具体的に記述されていることはもちろん,双方の役割分担やプロジェクトのリスクが明示されています。

 忘れてならないのは,システム構築のパートナーとして信頼できるかどうかです。会社(ベンダー)としての信頼だけでなく,担当者レベルで信頼に値する提案になっていることが理想です。

 こうして見てくると,提案書の品質はベンダーの担当者に大きく依存し,ユーザー側から働きかけることは少ないように思われるかもしれません。しかし,筆者の経験から言って,「質の高い提案書が作られる条件」(図2)をユーザーが整えてベンダーを後押しできれば,提案書の品質が格段に向上することが分かっています。逆に,優良ベンダーでも,条件が整っていない状態で提案依頼すれば,質の高い提案書は望めません。

図2●質の高い提案書が作られる条件
図2●質の高い提案書が作られる条件
提案書の作成作業は大変。ユーザーの後押しがないと質の高いものは作れない

 では,ユーザーはどんなふうにベンダーを後押しすればよいのでしょうか。図2の各項目に沿って考えていきましょう。

後押し(1)
担当者のフットワークを良くする

 ベンダーの営業担当者には,フットワークが良い人と,ぐずぐずしていて要領の悪い人がいます。連絡を取ろうとしてもなかなか連絡がつかない営業担当者は,取引を開始しても相変わらず連絡がつかないでしょう。その一方,「どこにいてもきちんと連絡がつく」「こちらが留守でも代理の誰かに伝言しておいてくれる」「メールの返信がすばやい」というような営業担当者は,プロジェクト開始後も大いに力になってくれます。

 ここでユーザーがしておくべきことは,営業担当者や技術者に何度かコンタクトして,進捗状況を把握することです。RFPを渡したからといって「待ち」に入ってはいけません。

 営業担当者らの動きが悪いようなら,彼らの上司に働きかけてそのベンダーに期待していることを伝え,何らかのアクションを促したり,取り組み体制を改善してもらったりすることも必要です。このような後押しが,質の高い提案書を得るための第一歩と言えるでしょう。

後押し(2)
良い技術者を確保する

 どんな優良ベンダーでも,良い提案書が書ける技術者は一握りの限られた人たちであるのが普通です。彼らは営業担当者から引っぱりだこで,急には時間が取れません。

 大規模な基幹系システム再構築の案件で,ある大手ベンダーが期待に反して非常に出来の悪い提案書を出してきたことがありました。後で事情を聞くと,営業担当者が社内でうまく動くことができず,技術者の援助を得られないまま提案の期限切れになっていたそうです。有力なベンダーが脱落してしまったことは,RFPを提出したユーザーにとっても大きな損失でした。

 こうした問題を避ける意味で,いきなりRFPを渡すのは得策ではありません。営業担当者を通じて事前にRFPの提示時期を伝えておき,良い技術者の予定を確保しておいてもらうとよいでしょう。また,これを確実にするために,ベンダー側の上司に働きかけるのも効果的です。ユーザー側のマネジメント層が「会いたい」と言えば,営業担当者は喜んで上司を連れて来るはずです。

後押し(3)
やる気を起こさせる

 ベンダーの担当者も人の子ですから,常にやる気満々なわけではありません。「あまりいいお客ではない」「面倒な案件だ」などと思われてしまったら,本気では提案してきません。

 というのも,過去の多くの失敗プロジェクトに対する反省から,ベンダー各社は不良案件に対するチェックをとても厳しくしています。優良ベンダーほど,自分勝手で尊大なユーザーの案件には安易に手を出しません。例えば,ベンダーが「もう少し要件を明確にしていただけませんか」という問い合わせをした際に,「RFPに書いてある情報で提案できないのなら,おたくには頼みませんよ」などと言うユーザーがいたら,やる気がそがれてしまうでしょう。

 ですから,ユーザーはベンダーに対して,決して見下した態度をとってはいけません。忙しい中,提案依頼に応じてくれたことに対して,誠意と期待を持って出迎えるくらいの姿勢が望ましいでしょう。「頑張ってください。よろしく」と声をかけるだけで,ベンダーのやる気は違ってきます。