NTTは7月21日,12月に始めるフィールド・トライアルに向け,次世代ネットワーク(NGN)の接続条件(インタフェース)を,とうとう開示した。明らかにされたのは,NGNと他の網を接続するNNI(network-network interface),NGNと端末を接続するUNI(user-network interface),NGNとアプリケーション・サーバーを接続するSNI(application server-network interface)と呼ぶ三カ所のインタフェースである。

 構想の発表当初からNTTが売り物にしていたのは,NGNを「オープン」にすること。実際に3月末,NGNのトライアル計画を発表したときにも,NTTの和田紀夫社長自らが「NGNの構築はオープンに進める」と何度も繰り返し強調。接続条件を開示し,幅広くアプリケーションを求めると表明していた。

 NGNは電話網並みの安定性や映像配信のための帯域保証など,従来のIP網と一線を画す機能を持つ。さらにNTTはNGNのトライアルに向け,回線レベルでの認証機能や著作権管理など,より高度な機能を接続条件として公開する予定としていた。これらの機能をサードパーティが使えるようになれば,NGNの可能性は大きく広がる。「来るべきNGNの上でどういうアプリケーションが実現するのか,NGNがどれだけ魅力的なものになるのか」。多くの事業者やメーカーなどは,その試金石としてインタフェースの開示を注目かつ期待していた。

「これだけの情報では接続できない」

 ところが皮肉なことに,接続情報の公開直後から,NGNトライアルに関する疑問や不満が次々と噴出する事態に陥っている。公開された接続情報の内容が不十分だとする多くのベンダーや通信事業者と,これ以上は「個別に」というNTTとの間で,見解が食い違ったままだ(図1)。

  図1 NGNのインタフェース条件の開示が十分かどうか,他事業者とNTTでは意見が食い違う
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  図1 NGNのインタフェース条件の開示が十分かどうか,他事業者とNTTでは意見が食い違う

 例えばイー・アクセスの小畑至弘専務執行役員チーフテクニカルオフィサー(CTO)は,「あまりの内容のなさに驚いた。イーサネットのコネクタ部分などを詳しく書いている割には,肝心の中身の情報が薄い。これだけでは接続できない」と批判する。

 7月31日にNTTが実施した,電気通信事業者協会(TCA)向けの説明会に参加したある通信事業者の幹部は,肩透かしを通り越して不信感まであらわにする。「既に公開された資料について説明しただけで,大した追加情報もなかった。NTTはまだ何か隠していて,仕様を“小出し”にしようとしているとしか思えない。他事業者がどのようなサービスをNGN上で展開するのか,手の内を探るつもりではないか」。

 NTTと競合する通信事業者だけではなく,ソフトウエア・ベンダーやコンサルティング会社などNGNを使った新サービスをもくろんでいた事業者も,公開された情報は不十分と見る。特に,SNIで SIP(session initiation protocol)以外のプロトコルが公開されていないことの不満が大きい。

 日本IBMの星野裕・理事-事業部長は,「上位レイヤーの仕様公開がまだまだ足りない。このままではソフトウエア・ベンダーがアプリケーションを書けない」と断言する。あるコンサルティング会社も「ネットワークより上位のアプリケーション向け仕様が乏しい。ひかり電話や映像配信といった既存のアプリケーションのための仕様が記載されているだけで,従来にない新しいサービスを創出していく場とは思えない」と言い切る。

 NGNを使ったサービスを企画し始めていた沖電気工業ですら,「加入者情報やトラフィックの情報などのAPIを公開してほしかった。NTTのNGNは,まだQoS(quality of service)などの下位レイヤーの機能がメイン」(尾崎裕二部長アプリケーションプラットフォーム担当)と評する。

「それ以上は相談を」と主張するNTT

 こうした声に対するNTTのスタンスは「今回は基礎的な接続条件を示して“幅”を持たせた。これ以上の仕様は,個別に相談しながら詰めていく。まずはNGNで,どんなサービスを提供したいのか相談に来てほしい」(雄川一彦第二部門次世代ネットワーク推進室ネットワーク戦略担当部長)という姿勢で一貫。一般公開する仕様開示は今回だけで,細かな点はあくまで個別にやり取りしながら詰めていく方針だ。

 つまり,NTTが「オープン」にしたのは参加する企業を募るというところまで。インタフェースがすべてオープンになることを期待している各企業とのギャップはあまりに大きい。今後,細かい接続条件を詰め始めれば,「事業者同士の腹の探りあいが交錯し,NTTとの個別相談は大いにもめるだろう」(日本テレコムの榎本洋一技術本部高度ネットワーク部長)との観測は数多い。さらに「そんなに数多くの個別対応をしていて,本当にNTTは12月にトライアルを始められるのか」との懸念までささやかれる。

 NGNトライアルに期待する事業者は極めて多く,トライアルに対する不安や不満は期待の裏返しとも言える。NGNはそもそも,数多くの事業者が集まり,その上で新しいビジネスを創設するというオープンなコンセプトを持っていたはず。

 しかし少なくとも現時点のNTTは「疑問があるとは思うが,まずは提案を持ってきてほしい。相談に乗るし,やりたいことに合わせて仕様を詰めていく」との一点張り。「オープン化」を巡る周囲との溝は容易には埋まりそうにない。