写真 総務省
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 総務省は8月25日,「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」(IP懇談会)の報告書案「新競争促進プログラム2010(案)」に対する意見募集の結果を公表した。寄せられた44件の意見のうち36件が通信事業者やメーカー,業界団体からのもの。NTTグループ各社やKDDI,ソフトバンク,ケーブルテレビ事業者や電力系通信事業者など,国内の主力通信事業者は軒並み顔をそろえた。

 新競争促進プログラム2010は,NTTグループへの行為規制を強める方向を示している。このため,反発するNTTグループと賛同する競争事業者という対照的な構図が顕著に現れた。光ファイバやNTTグループが今後構築する次世代ネットワーク「NGN」(next generation network)への規制や,東西NTTとNTTドコモのFMC(fixed mobile convergence)サービス,東西NTTと子会社の連携などが争点になっている。

 例えば光ファイバに関して,NTTグループは「他事業者が敷設できる環境は既に整っているため,第1種指定電気通信設備の対象外になる」とし,光ファイバを規制対象から外すべきという以前からの主張を繰り返した。これに対して,KDDIやソフトバンクらの競争事業者は,光ファイバを東西NTTと同等の条件で敷設できるようにはなっていないと,一層の規制強化を要求している。

 また,NTTグループの次世代ネットワークについても,NTTグループは「既に基盤設備のアンバンドリング/オープン化は進んでおり,他事業者も同様のネットワークを構築できる」とし,規制の必要はないとする。一方の競争事業者は,次世代ネットワークを使った商用サービスが始まる前に規制を課すべきと訴えている。

「GyaO」のトラフィックを制限している通信事業者がいる?

 ネットワーク中立性原則に対しても,複数の事業者が意見を寄せた。無料の動画配信サービス「GyaO」のユーザー急増により,「インフラただ乗り論」ぼっ発のきっかけとなったUSENもそのうちの1社だ(関連記事)。

  新競争促進プログラム2010(案)

 USENは,「コンテンツ・プロバイダが直接接続する通信事業者以外のインフラ・コストを負担するというのは常識的には考えがたい」(USEN)とただ乗り論に反論。さらには,「当社のコンテンツ配信サービスにおいて,ユーザーからの問い合わせなどにより,一部の通信事業者から通信帯域の制限を受けていると推測される事態が発生している」とも主張した。USENは,IP懇談会の中間報告時の意見募集でも同内容を提出しており,「数カ月経過しても状況は変わっていない」(USEN)と打ち明ける。

 インフラのコスト負担については,「大容量コンテンツ配信を促進するためには,ネットワーク増強に要するコストを着実に回収することが必要」(NTT持ち株会社)という意見もある。だが,実際には「どの事業者から何のトラフィックがどれだけ流れてきたのかを正確に把握するのは不可能に近い」(関係者)という問題もあり,課題の整理が必要だろう。

 また,携帯電話向けコンテンツ事業者を束ねる業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」は,「通信レイヤーやプラットフォーム・レイヤーの利用が一部阻害され参入できない,あるいは公平な利用環境にないという状況が起こっており早急な対応が必要」と指摘。コンテンツ・プロバイダによっては,コンテンツを提供したくても携帯電話事業者の協力を得られない問題があることが明らかになった。

 携帯電話のビジネスモデルも複数の事業者が意見を寄せるなど,関心の高さがうかがえた。特に,SIMロックの解除と販売奨励金の廃止については,「事業者の経営判断に委ねるべき」(情報通信ネットワーク産業協会など)という意見が主流だった。一方で,モトローラは「高機能端末については携帯電話事業者主導の現行モデルでもいいが,低価格端末は端末メーカー主導で提供可能にすべき」と述べた。

 今回寄せられた意見を参考に,新競争促進プログラム2010には多少の見直しが入る見通し。ただ,方向性に大きな変更はなさそうだ。いずれにせよ現時点での議論は,あくまでも今後のための論点整理に過ぎない。新たな競争ルールをどう作り上げていくのかは,9月以降に続々と立ち上がる研究会などの検討の場に委ねられる。