図1 仕入れたものをオリジナル・ブランドで売り出す(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 仕入れたものをオリジナル・ブランドで売り出す(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 携帯電話に独自の機能やサービスを付ける(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 携帯電話に独自の機能やサービスを付ける(イラスト:なかがわ みさこ)
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 MVNO(mobile virtual network operator)とは,自らが通信設備や通信事業者としての免許を持たずに,携帯電話事業者の基地局やアンテナなどの設備を借り受けてユーザーに携帯電話サービスを提供する事業者のこと。携帯電話事業者とは違う料金体系や,限定ユーザー向けの付加サービスなど,独自のブランドと戦略で携帯電話サービスを提供する。

 では,MVNOによる具体的なサービス・イメージを見ていこう。

 例えば,既存の携帯電話事業者のサービスを独自仕様の携帯電話機や料金体系で再販するケースがある。すでに,CATV事業者のジュピターテレコム(J:COM)が「J:COM MOBILE」というサービスを提供している。J:COM MOBILEは,J:COMのユーザーだけが利用できるPHSサービスで,CATVやインターネット接続などと併せて契約すると料金が割安になる。ユーザーはJ:COMと契約するが,PHSの通信網はウィルコムの設備を使う。

 仮に,アパレル・ブランドやレコード会社などがMVNOに参入すれば,既存の携帯電話事業者と同じ携帯電話網を使いつつ,提供される携帯電話機は人気ブランドやアーティストのオリジナル・デザインのきょう体になるかもしれない。そうなれば,ファンは携帯電話事業者ではなくそのMVNOの電話機を買うだろう。ジュースなどの製品でもそのまま売るより,その店独自のデザインにした方が人気が出たりするのと同じだ(図1)。

 そのほか,既存の携帯電話事業者のサービスにさまざまな付加機能を追加するケースも増えそうだ(図2)。

 例えば,日本通信がウィルコムのPHS網を使って2001年から提供している「b-mobile」は,専用のデータ通信カードを購入すると,一定期間,追加費用なしでPHSのデータ通信と公衆無線LANサービスを利用できる。仮に同社が携帯電話もMVNOで提供すれば,携帯電話のデータ通信もb-mobileに取り込める。そうなれば,b-mobileの通信カードでPHS,携帯電話,公衆無線LANサービスの3種類の通信網を使えるようになる。

 MVNOの付加サービスとしてはこのほかに,証券会社によるユーザー限定の株価情報や為替情報の配信や,コンテンツ・プロバイダによる動画や音楽の配信なども想定されている。

 総務省は2006年7月,「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について」という報告書を発表し,MVNOの参入を促進する方針を示した。金融や小売など他業種からのMVNO参入を促すことで,携帯電話サービスを多様化させ,価格以外で競争を活性化させるのが狙いだ。

 しかし,実際にMVNOが生まれるには難しい側面もある。NTTドコモやKDDIは自社ユーザーが多く,「MVNOに提供できる周波数の余裕がない」として当面はMVNOへの設備提供はしない方針だ。ボーダフォン(10月1日からはソフトバンクモバイル)や携帯電話事業に新規参入を果たすイー・アクセスは,MVNOの受け入れに前向きだが,参入を希望する企業との交渉では,通信網の使用料などでなかなか折り合いがつかないようだ。

 このような状況を受け,総務省は2006年中をめどに「MVNO事業化ガイドライン」を改正し,MVNOに求められる技術要件や携帯電話事業者がMVNOの接続拒否する場合の条件などを明確にする考えである。