仕様書の品質を均一化するためにテンプレートを利用する現場は多いと思うが,正しく運用できているだろうか。ちょっとした心がけの違いで,過剰品質の原因となったり,型にはまりすぎた平板な仕様書を生みだしたりする。「テンプレートの利用に伴う弊害」をテーマに取り上げ,よく起こる2タイプの事例を通して,予防するための心得とは何かを考えてみたい。

松田 陽人(まつだ・はると)
システム・エンジニア

 仕様書を作成する際,記述する情報の質と量が重要であることは言うまでもないが,その記述レベルは人によってばらつきやすい。特にシステムの規模が大きければ,仕様書の作成にかかわる人の数が増え,生み出される仕様書の質と量のばらつきも大きくなってくる。

 このような問題を避けるため,書式や記述レベルを均一化する目的で仕様書の「テンプレート(ひな型)集」や「ガイドライン」を用意したり,プロジェクトの実情に合わせた「記述サンプル」を作って配布したりする開発現場は多いだろう。仕様書の完成イメージが全メンバーの間で統一できていれば,自ずとばらつきは減っていくはずだ。

 ただし,こうした取り組みにも,意外な落とし穴がある(図1)。テンプレートや記述サンプルなどの適切な使い方を知らないと,むやみに資料の多い「過剰品質の仕様書」や,型にはまりすぎて「意図の伝わりにくい平板な記述の仕様書」を生むきっかけになることもあるのだ。どちらのケースも,程度次第ではプロジェクトに大きな影響を与える可能性がある。

 今回は,テンプレートや記述サンプルの利用時に起こりがちな二つの問題について,実例からその発生プロセスを探りつつ,予防のための心得とは何かを考えていきたい。

図1●テンプレート集を利用する際の落とし穴
図1●テンプレート集を利用する際の落とし穴
仕様書を作成する上で,記述項目を標準化したテンプレート集は便利である。だがその半面,仕様書を作りすぎたり,記述内容が悪い意味で画一的になり,ポイントが伝わりにくかったりする問題も起こり得る