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 世界中のネットワーク・テストベットを結ぶ「GLIF」(the Global Lambda Integrated Facility)は9月13日,14日に東京・秋葉原で公開シンポジウムを開催する。GLIFは,1億画素のディスプレイに映し出す超高精細画像のネットワーク伝送やグリッド・コンピューティングなど,超大容量ネットワークの研究開発を進める国際コミュニティだ。GLIFで精力的な活動を展開する青山友紀・慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授にGLIFの活動内容と特徴を聞いた。(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション

--そもそもGLIFとは,どういった組織なのか。

 世界中のネットワーク・テストベットが参加する国際コミュニティだ。テストベットは従来,国内に閉じて研究活動を行ってきた。ネットワーク・テストベットをグローバルにつないで新しい試みをやってみようということで,2003年に設立したのがGLIFだ。世界各国のテストベットが参加して,グローバルでネットワーク運用できる唯一の組織と言えるだろう。

 現在,世界各国から約40のネットワーク・テストベッドがGLIFに参加している。日本からは,「WIDEプロジェクト」と情報通信研究機構(NICT)が運用する「JGN II」がメンバーとして活動中だ。

--GLIFの研究テーマは。

 GLIFのターゲットは「超大容量」。学術機関など,ごく一部のユーザーが利用するけた違いに大きな容量を持った専用ネットワークについて,運用上の課題やアプリケーションのサポートなどに関する議論を行っている。GLIFが対象とするような種類のネットワークを「ラムダ・ネットワーキング」と呼ぶ。グリッド・コンピューティングなど,複数の広帯域回線を相互接続した環境でデータ解析などを行うことを意味している。

 10Gビット/秒や100Gビット/秒のネットワークを相互接続して運用したときに,どんな挙動を示すのか,どういった問題があるのかは,実際に試してみなければ分からないものだ。これを商用ネットワークで試すには限界があるため,ネットワーク・テストベッドをGLIFの名の元にグローバルにつなぐことで,試験環境を用意した。

 超大容量ネットワークという最も難しいテーマに取り組むことで,技術革新が起こることを期待している。そうなれば,ビジネス用途でも新しい使い方ができるようになるし,最終的にはコンシューマも恩恵を享受できるはずだ。

--具体的にはどういったアプリケーションを扱うのか。

 例えば,「サイエンス・ビジュアライゼーション」。複数のディスプレイをタイル状に組み合わせた1億画素のディスプレイを使う,気象や地震のシミュレーション映像など,超高精細画像の伝送である。また,ハイビジョン映像の4倍の高精細を誇る4096画素(4K)シネマの伝送なども試みている。これらの取り組みは,「世界初」のものがほとんどだ。

 実証実験自体はGLIFではなく,他のフォーラムなどで展開するケースが多い。各国のネットワーク・テストベッドが様々な実証実験結果をGLIFに持ち寄り,情報交換をしている。

--公開シンポジウムについて聞かせてほしい。

 GLIFでは毎年,定期的に会合を開いているが,今年は日本が開催地となった。これに合わせて,NICTとWIDEプロジェクトの主催で,9月13日に秋葉原コンベンションホールで「グローバル・ラムダ・ネットワーキング・シンポジウム」を開催する。これまでの成果を紹介するのはもちろん,今後の取り組みについても広く公開したい。また,ネットワーク・テストベッドを今後,どのように利用していくのかも議論したいと考えている。

 GLIFが日本で公開シンポジウムを実施することには,重要な意味付けがある。ネットワーク・テストベッド間をつなぐ国際回線は,日本と米国,米国と欧州の間は整備されている。しかし,欧州と日本をつなぐ回線はない。また,アジア各国へつながる回線もない。日本での開催をきっかけに,賛同者を得て,回線の整備や人材面での協力を得たいと考えている。通信事業者らにとってコストが発生する話だが,他からは得られない運用上の情報などが提供できる。

 また,GLIFの公開のシンポジウムと時期を同じくして,「ONT3」というイベントを9月7日,8日に秋葉原コンベンションホールで開催する。ONT3は,米国大統領府科学技術委員会が後援している会合で,元々は米国内のネットワーク関係の政府機関や大学関係者がクローズで展開していたもの。今後の米国のネットワークのあり方について議論する見込みだ。

 ONT3を日本で開催するのは,GLIFとの協調体制をとっていることと,ブロードバンドが進展している日本への意識が高いからだと認識している。