ガートナー ジャパン リサーチグループ バイス プレジデント 山野井 聡 氏 山野井 聡 氏

ガートナー ジャパン リサーチグループ バイス プレジデント
アクセンチュア、データクエスト ジャパン (現 ガートナー ジャパン)、ドイツ証券を経て、2004年10月より現職。日本のリサーチ部門のヘッドとして、アナリスト・グループを統括している。また自らもアナリストとして、日本国内のITサービス市場の動向分析、および企業のソーシング戦略立案・導入・管理に関するアドバイスと提言を行っている。

 ITサービス会社が収益性を高めるのに最適なビジネスモデルは何か?今回は「儲けるためのヒント」を、米国市場の最新事情から探ってみたい。昨年ガートナーでは、北米地域の主要なITサービス企業38社を対象に、収益性に関する調査を実施した。選定の条件は、公開企業で、かつ売り上げの80%以上をコンサルティング、ソフト開発、アウトソーシングなどのプロフェッショナルサービスから得ていることだ。

 税引き後の純利益率で見ると、全社平均が2.8%なのに対して、トップ10社の平均は20.7%と極めて高い。中には日本であまりなじみのない企業も存在するが、これら10社を分類すると、次の3グループに分けられる。(1)コンサルティング専業:Advisory Board、Executive Board、FTI Consulting、IMS Health、(2)インド系企業:Cognizant、Infosys、TCS、Wipro、(3)BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)提供企業:Paychecks、First Data、である。

 米国のITサービス業界では、商売に関して「先人・賢者の知恵袋」がある。しかしその中のいくつかは、今回の結果を見る限り、過去の遺物となりつつあるようだ。

 例えば、「高額フィーのビジネスコンサルは『死に体』である」、あるいは「コンサルや助言のみならず、開発導入まで一貫したITサービスを提供すべし」と米国ではかねてから言われてきた。しかし、Advisory BoardやIMS Healthは、医薬・医療・病院などのヘルスケア関連事業に特化したコンサルだし、Executive Boardは企業経営層に絞った教育サービスで成功している。特定の業種、ビジネスプロセス、顧客にフォーカスし、かつインプリメンテーションを伴わないコンサルは「死に体」ではなかったわけだ。

 「バック事務のアウトソーシングは儲からない」という格言も、PaychecksやFirst Dataの業績が否定してしまった。この格言は労働集約的な人月サービスを提供する限り正しいといえる。しかし、人事給与・福利厚生、およびカードプロセシングのBPO事業者である両社は、大量トランザクションの集中処理と、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)などのユーティリティ型サービスモデルを獲得し、高収益性を実現した。

 「サービスの多角化、フルライン化こそが、売り上げと利益の増加をもたらす」という格言もよく聞く。実際、インド系企業4社には一見当てはまりそうだ(インド系企業は、北米市場におけるITサービス売上高でも上位15社の中に3社が入る活躍ぶり)。しかし、上位10社のうちの6社には該当しない。むしろ、最上流か最下流に軸足を据えた“ピンホールキラー”こそ志すべき方向性といえそうだ。

 「低コストのグローバル・デリバリー・モデルを志向せよ」という金言もある。しかしながら、今回の上位10社のうち半数は、北米地域以外の低人件費国に委託するソーシング戦略を採っていなかったという事実をどう解釈すべきか。コストの安い人材を確保すること自体は収益性と関係がない。要は、そういう人材をどの局面でどのように使いこなすかというマネジメントの巧拙が収益率を決定するのである。

 こうした収益性とビジネスモデルというテーマについては、日本のケースも含め、今後も当欄で取り上げていきたいと思う。