IDC Japan ソフトウェア担当 リサーチアナリスト 田中 久美 氏 田中 久美 氏

IDC Japan ソフトウェア 担当リサーチアナリスト
ソフト分野の市場分析に従事。主な対象分野は、サーバー・バーチャライゼーション・ソフト、HAクラスタリングソフトなど。

 ITILが国際的な運用管理標準として定着するに従い、主要ITベンダーによるCMDB(Configuration Management Database)開発や製品対応が相次いでいる。

 企業が様々な法規制を順守しながら、システム運用の自動化やビジネスプロセスのモデル化を進めなければならない中で、重要性が高まっているのがデータレベルの統合基盤の確立である。そのためのセンターピースとして、グローバル市場において役割を強めていくとみられているのがCMDBだ。

 CMDBとはITILの構成情報データベースのことで、ITILの各サービスプロセスと極めて密接に連動し、各構成アイテムの相関関係や関連履歴を捕捉し、インシデントや変更作業の影響範囲を特定することなどに威力を発揮する。

 具体的には、ITの構成アイテム(CI:Configuration Item)やその依存関係を記述して、統合データベースとしての役割を持たせることになる。CIに含める対象は、PCからネットワーク機器、サーバー、モニターやパッケージソフト、メモリーカードや各種ドキュメントなど非常に多種多様であり、何をCIとして記述するかはITIL導入の目的に応じて選定される。

 ITSM(ITサービスマネジメント)やBSM(ビジネス・サービス・マネジメント)のコンセプトを展開、リードするHP、BMCソフトウェア、そしてCAも、CMDBについての取り組みを現在加速している。ITIL準拠のアプリケーションの市場投入段階から、CMDB製品対応が具体的に進むにつれ、アーキテクチャそのもののITIL準拠のステージに移っている。また、CI情報の自動検出/マッピングエンジンに関する技術取得を目的としたベンチャー企業の買収も目立ち、IBMがCollation社を、EMCがnLayers社をそれぞれ買収した。

 IBMは現在Tivoli製品の見直し作業を行っており、2006年後半にITSMのフレームワークの下に、プロダクトの再編成を発表する予定である。CMDBやプロセス管理、リリース管理といったITILで優先度の高い製品を国内市場に続々と投入していき、Collationの技術に基づいたCIの相関関係を自動的に収集する技術を売りに、後発ながらも技術的な競争力の高い製品を展開していく計画だ。

 国内勢もまたCMDB対応の流れに遅れまいと、動きを見せ始めている。富士通は、IBM、BMCソフトウェア、HP、CAと共にCMDBの標準仕様策定に着手し始め、SOA時代の到来に向け、サービスバスとCMDBを介したサービスベースの運用基盤を2007年に投入する計画だ。NECもWebSAMバージョン6においてフレームワークを刷新し、CMDBを標準機能として製品に取り入れた。同時に、業種・業務横断的な運用管理の必須管理項目を共通機能化してフレームワークに統合した。

 ITILやITSMの発祥の地である欧州では、CMDBはコアコンポーネントとして既に広く受け入れられている。日本も2008年4月からの事業活動が日本版SOX法の監査対象となるため、ITIL導入機運が一層高まることは確実だ。ITIL成功の鍵がCMDBにあることは間違いないが、ここで重要なのは、優先度の高いものから段階的にITIL準拠のアプリケーション導入を進め、ITILプロセスへの理解を深めることである。ベンダーは、導入や保守が容易なCMDBソリューションの開発に勤しむべきであろう。