図 新競争促進プログラム2010の構成と各論点のポイント 図中のマウスのアイコンをクリックすると,各論点のポイントがチェックできる (クリックすると画面を拡大)
  図 新競争促進プログラム2010の論点ごとのスケジュール
 総務省の「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」(IP懇談会)が打ち出した競争ルールの全面刷新案「新競争促進プログラム2010」には,実に多岐にわたる論点が盛り込まれている。多くの業界関係者が「現行の競争ルールの問題点をすべて含んでいる」と評するほどだ。

 プログラムの構成は大きく九つの論点に分かれ,その配下にもさらに多くの詳細な論点が提起されている。具体的には(1)設備競争の促進,(2)指定電気通信設備制度(ドミナント規制)の見直し,(3)東西NTTの接続料算定方法の見直し,(4)移動通信市場における競争促進,(5)料金政策の見直し,(6)ユニバーサルサービス制度の見直し,(7)ネットワークの中立性原則の検討,(8)紛争処理機能の強化,(9)市場退出ルールの見直し--である()。

 ほぼすべての論点に対して行程表が付加されており,検討の場の設置やガイドラインの作成期限までもが明示してある。それによれば,今秋から複数のテーマの検討が一斉に始まる予定だ。プログラムを取りまとめた総務省総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課の谷脇康彦課長は,「すべての論点はつながっている。一つずつ議論するのではなく一気にやるしかない」との決意を見せる。

NTTグループの行動を制限する内容が盛りだくさん

 新競争促進プログラム2010の中核は,NTTグループに対する規制の強化である。NTTグループの組織そのものには手をつけないものの,NTTグループの独占状況をチェックする新制度「競争セーフガード制度」の整備などを明示している。

 またNTTグループが「規制対象から外すべき」と主張している光ファイバについては,改めて開放義務を課すことが適当と明記。さらには,今後NTTグループが構築する次世代ネットワークまでも,新たに構築するものではなく既存の固定電話網をベースにしたものなので規制の対象になると断言している。次世代ネットワークの下,事業会社間の連携を強化することで“グループ経営”を目論むNTTにとって大きな足かせになる。

 さらにプログラムへは,2010年までにNTTグループへの規制強化と連動して,指定電気通信設備制度の包括的な見直しを行い,運用を開始すると記してある。総務省の狙いは,欧州で採用されている「SMP(significant market power:市場支配力)指定」のような新方式への移行にある。欧州のSMP指定とは,卸売り市場や小売り市場など,マーケットごとに市場支配力をチェックし規制を課す方式だ。現状の指定電気通信設備制度は固定通信と移動体通信の2分野で,市場支配力を持つ事業者に規制をかけている。しかし今後,FMC(fixed mobile convergence)サービスがさかんになれば,固定と移動で規制を分ける方式はそぐわなくなると考えているようだ。

「インフラただ乗り論」にも本格的に取り組む

 目新しい論点としては「ネットワークの中立性原則」がある。ネットワークの中立性とは,通信事業者間の設備コスト負担の公平性と,利用の公平性という二つの課題を指す。前者の通信事業者間の設備コストの問題は,2006年初頭に,USENの無料動画配信サービス「GyaO」のトラフィックの急増を受けてぼっ発した「インフラただ乗り論」と同義。急増するトラフィックに対して,インフラのコストを誰がどういった形で負担すべきなのかを検討する。

 利用の公平性とは,物理網レイヤー,通信サービス・レイヤー,プラットフォーム・レイヤー,コンテンツ・アプリケーション・レイヤーの4レイヤーの間のオープン性についての問題だ。さまざまなコンテンツや端末に対して,通信事業者のネットワークは等しく使えるようになっているか,端末に公平にインタフェースが公開されているかといった論点を検討する。

 総務省がネットワークの中立性原則に取り組むのは,これが初めてのことだ。今までは業界内の“暗黙のルール”としては存在してきたが,IP化の進展とトラフィックの激増に歯止めがかからない状況の中で,改めて表舞台で議論する必要があると判断したようだ。