提案活動を成功させるためには,顧客が提案を依頼する目的や背景,ニーズを押さえる必要がある。そのために必要な準備段階の作業や留意点,さらにヒアリングやディスカッションなどのスキルを説明しよう。

久井 信也(ひさい しんや)
ソリューションサービス研究所 代表取締役

 提案で重要になるのは,まず顧客がなぜ提案を依頼しているのか,理由をきちんと押さえることだ。

 提案を行う局面は2通りある。1つは提案者側からの働きかけ,つまり計画的かつ能動的に提案する場合。もう1つは,顧客からの働きかけによる受動的な提案の場合である(表1)。

表1●提案の段階別に見た顧客/提案者の目的
表1●提案の段階別に見た顧客/提案者の目的

 顧客からの働きかけによる受動的な提案は,さらに依頼の理由が分かれる。

 1つは,顧客がシステム導入を検討する中で,専門家の意見や判断を参考にしようとしているケース。例えば,見込み客としてはみなしていなかったユーザー企業から,「今,当社で次期システムのあり方について検討中ですが,専門企業である御社から提案していただけませんか」というような提案依頼が来た場合が相当する。

 もう1つは,ユーザー企業である程度の検討は終わっているが,検討結果の検証のために提案を依頼されるケースである。

 いかなる局面であっても,顧客の依頼の目的を明確にすることが,良い提案のカギになる。このため顧客の目的や背景,ニーズをきっちり把握できる方法を身に付けるところから提案の基礎スキルの習得は始まる。

 ベンダーが能動的に提案する場合は,関連するさまざまな情報を収集,分析したうえで提案を実施する。たいていは顧客の動向をよく把握したうえで提案することが可能だ。

 これに対し受動的な提案では,いわば割り込み的な仕事であるために,提案の目的や背景,真のニーズを探るのに十分な期間を確保できないことが多い。そうなると必要な情報を収集・分析できないまま提案することになる。状況を把握しないままでは,顧客が何を望んでいるか分からないので,提案がうまくいかないのは当然である。結果として労力を費やした割には成果に結びつかないことになりやすいので注意が必要だ。

 以下では,提案活動に必要な基本的な知識とスキルについて解説していく*1

提案の3つの成功要因

 提案とは「顧客に戦略や計画の施策,解決策を示し,実施のための意思決定と行動の変容を促すこと」である。つまり顧客が何らかの意思決定と行動の変容を起こさないと提案は成功したことにならない。

 提案が成功するためにはどのようなことを心掛けるべきだろうか。冒頭で述べたように提案はさまざまな局面で行われるが,次の3つの要素は成功要因として共通しているので,よく覚えておいてほしい。

(1)提案の内容が魅力的。
(2)提案するタイミングを外していない。顧客が提案を決裁する仕組みやスケジュールに合っている。
(3)競合企業と競争している状況を意識している。自社だけが顧客と密接な関係であると,油断をしてはならない。

 いかに優れた提案であっても状況やタイミングを外しては目的を達成できない。状況とタイミングに合わせて情報収集や分析,提案したい解決策を検討すべきである。