経済産業省が2005年度に行った7分野の無線ICタグ実証実験のうち、出版業界の取り組みについて報告する。出版業界では、ICタグの導入が返本率の低下につながると見て実験を行った。

 経産省の支援による出版業界の無線ICタグの実証実験は、2005年度で3年目である。その本格導入への道筋がようやく見えてきた。ICタグシステムは、メーカーから小売りまでのどのプレーヤにも導入メリットをもたらし得るが、誰がコストを負担するのかが常に課題になる。出版業界では、製本時にICタグを取り付けることを目指しており、コストは出版社が負担する可能性が大きい。この点で、まずは出版社に利点がないと導入は広がらない。

 ICタグの導入によって出版社が期待しているのは、4割にも達する返本率を低くすることである。書籍の返本率が高いのは、再販制度に基づく委託販売が背景にある。新刊の販売は出版社が書店に「委託」し、売れ残った書籍は返本できる。書店は返本リスクがないため、多めの在庫を抱えたがる。これがさらに返本率を高める。ただし、書店が追加で発注した書籍は買い取りになり、返本できない。

 返本が可能かどうかは、書籍に挟み込む紙のスリップを見れば判別できる。しかしスリップは付け替えられても分からず、返本時に必ずしも正確に判別できていないのが実情だ。このスリップをICタグに置き換え、背表紙の裏側などに埋め込んで外せなくすれば、出版社は買い取り本かどうかを、ICタグのIDなどで確実に判別できるようになる。返本の実態がはっきりすれば、書店に返本率を下げる努力を促す材料になる。

 ICタグのコストの一部は、紙のスリップを廃止することでまかなえる。スリップ自体のコストは1枚1円強で、管理コストなども含めれば3円程度と言われている。

 そこで出版業界が期待しているのが、経産省が日立製作所などに委託して開発している5円のICタグインレット「響タグ」である。ICタグが5円になり、返本率の低下などで1冊2円以上のコスト削減ができれば、導入メリットが出てくる。日立は、出版業界が最初のターゲットにしているコミックに装着できる響タグを開発している。響タグに関しては、「実際のコミックに装着して販売する実験を2006年秋にも行いたい」(講談社営業企画部部次長の永井祥一氏)という。