[画像のクリックで拡大表示]

 このままでは期限に間に合わないかもしれない――。そんな状況になって,一気に集中力が高まった経験はないだろうか。俗にいう「締め切り効果」である。

 タスクを実行する段階において重要なのは,集中力を高めて維持することだ。その有効な方法の1つが,適度なプレッシャーを自分に与えること。いわば,「締め切り効果」の自己演出である。“適度な”というのは,あまり焦り過ぎると逆効果という意味だ。これを日々実践しているのが,コクヨの福田氏である。

 「さて今から1時間。ヨーイ,ドン」――。福田氏は,企画書の作成や仕様書のチェックなどのタスクに取りかかるときに,決まって時計を見て心の中でこうつぶやく。今まさに仕事に着手したことと,完了予定時刻を“宣言”することで自分にプレッシャーをかける。「終わるかどうかギリギリの時間設定にしておくと,気を抜かずに集中力を維持できる」(福田氏)という。

 数分で終わる経費精算や資料の整理といったタスクも例外ではない。そうした短時間で終わるタスクは一覧表にまとめておき,15分や30分といった中途半端に空いた時間を使って次々と片づけていく。「時間内に1つでも多く終わらせたいという気持ちになるので,つまらない作業でも集中して行える」(同)。

タスクを分割する

 締め切り効果の自己演出は,程度の差こそあれ多くの人が日ごろから行っているはずだ。例えばタスクに取りかかる際に「これは2時間で終えよう」と考えるのもその1つと言える。ただし,上手くやるには“コツ”がある。

 まず自分が,集中力を維持できる時間を把握することだ。福田氏の場合は,「だいたい60分間。これを“1コマ”として仕事をこなす」。しかし提案資料や仕様書の作成など,1コマで終わらないタスクも少なくない。その場合には,1コマで終わるようにあらかじめタスクを分割する。例えば提案資料の作成なら,内容の難易度を勘案して背景説明は1コマ,提案骨子は合計2コマという具合だ。

 1コマを15分や30分といった短い時間に分割して,タスクの進ちょくを確認するのも効果的だ。1コマで2ページの文書を作成するように設定したならば,半分の時間を経過した時点で1ページ終わっていなければならない。そうでなければ,さらに集中力を高めて急がなくては設定した時間までに終わらないことが明確になる。こうしてプレッシャーを自分に与え続けるのである。

 ただし設定した終了時刻は,自分だけの目標にすぎない。そのため間に合わなくても,「残念」という気持ちになるだけかも知れない。そこで締め切り効果を高めるために,夜や休日に外出する予定を入れてしまうのも1つの手である。

 ベリングポイントの奥井氏は毎日のように,人と会う予定を夜に入れている。「予定通りにタスクを終えなければ,アポに遅刻するか,仕事をやりかけのモヤモヤした気持ちで人に会わなければならない。そうはしたくないという緊張感が,より高い集中力を生み出す」(奥井氏)のだ。

始業前は集中する絶好の環境

 締め切り効果を演出しても,邪魔が入ると集中力はそがれてしまう。例えば誰かが話しかけてきたり,電話が掛かってくる,メールの着信通知が画面に表示されるなどである。

 そこで集中力を維持するには,邪魔が入らないようにすることが不可欠である。この点についてエクサの安藤氏は,「メールは自動的に取り込まない設定」にしている。メールを処理するための時間を設け,集中して処理する。

 一方,コクヨの福田氏は「空いている会議室や社員食堂で仕事をする」。また「本当に集中したいときはLANのケーブルを抜いてヘッドホンをかける」(37歳男性のプロジェクト・マネジャー)という強攻策に出る人もいる。それによって周囲に話しかけないで欲しいという意思表示をしているのだ。

 ただしこのような方法には他の人とすぐにコミュニケーションを取れず,業務に支障を来しかねないというデメリットもある。そこで活用したいのが始業前の時間帯だ。

 早起きが必要なので,精神訓話のように聞こえるかも知れない。だが,「集中力を高める効果は絶大」(カブドットコム証券の齋藤氏)と実感している人は多い。単に邪魔が入らないだけでなく,「せっかく早く来たのだから時間を無駄にできないという気持ちになり,すぐに仕事に取りかかることができる。しかも始業までにこのタスクを終えたいという締め切り効果も生まれる」(同)。

 無理をして早起きする必要はない。始業時刻より30分でも1時間でも早い出社を心がけることから始めたい。

(中山 秀夫)