稼働後レイムダック化(弱体化)したシステムを,それに関わる「人」の立場からいかに蘇生していくか検討するのが,このシリーズのテーマである。前回に続いて,今回もユーザー部門に焦点を当てる。

 ユーザーの立場でシステムを蘇生させる方法を探る前に,まずシステムのレイムダック化にユーザーがどのように関わっているかを見ていこう。

 前回検討したように,システム導入成功の条件について,ユーザーが主体的に関わるべきことに手を抜くと,その時点でユーザーはレイムダック化に手を貸したことになる。

 ユーザーがシステム導入に主体的に関わろうとしない背景の1つに,ユーザーの姿勢の問題がある。ユーザーが,最初からシステムを自分の問題としてとらえない。そこからすべての無責任な現象が始まる。例えば,すべてをシステム部門任せにする,データ入力などに協力しない,システムを使おうとする努力をしない。これらに,レイムダック化の要因が山ほどある。

 さらに,何よりも厄介で重要な問題として,システム導入プロジェクトに関わるユーザーの質の低さが背景にある。プロジェクトチームに派遣されたユーザー部門の代表者がプロジェクトに不適だった場合,派遣された本人はもちろん,派遣を決定したユーザー部門の長にも,さらにやがては受け皿になる構成員にも,質と責任が問われる。例えば,ユーザー部門の代表者がそもそも自部門の業務に精通していなかったり,コミュニケーション能力に欠けたり,上司から決定権を与えられていなかったりした場合,全てが悲劇と化す。

 いちいち出身部門に伺いを立てることで,ユーザーの真の要望に歪みが出る。出身部門のバックアップ体制が不充分な上に,本人の考え方が揺らぐので,ユーザー部門からの様々な要望に歯止めがかからない。一方,不合理な提案や変更を安易に受けたりして,混乱を招く。こうして,ユーザー部門全体としてシステムのレイムダック化に力を貸すことになる。


動かす努力を通じて発言力を確保する

 さて以上で検討したことを前提に,レイムダック化したダメシステムにユーザーがどのように関わって,システム蘇生に貢献できるかを考えてみよう。

 まず,背景にあるユーザー部門の姿勢と質の問題から決別することが大前提となる。そのことをユーザー部門自らが強烈に意識して実行しなければ,次に進めない。現状の体制でそれができない時は,ユーザー部門の長/代表者/キーマンなどを更迭しなければならない。こうなるとユーザー自身の問題を超越し,トップの管轄となる。いずれにしろ姿勢と質の問題に決別できた者,あるいは更迭後の体制だけが次に進むことができる。

 出発点は,システムがレイムダック化したことをユーザーが「自分の問題」としてとらえることだ。決してシステム部門などのせいにしてはならない。このことはシステム部門以外についても言えることだが,前回も触れたように,システム導入プロジェクトにおいて,特にユーザーは「悲しい存在」だからである。

 ユーザーがシステムについてクレームをつけると,逆に日頃の業務の欠陥を指摘されるなど,火の粉をかぶる破目になることが多い。それが嫌で,つい貝になって問題から逃げてしまう。しかし,ユーザーはシステムの費用負担も功罪もすべて背負う宿命にある。ユーザーがダメシステムを「自分の問題」として認識し,しっかり対峙することで事が始まる。

 ダメシステムを蘇生させるためのオーソドックスな方法は,ダメシステムをあきらめてシステム構築を最初からやり直すことである。あるいは,ユーザーがシステム部門やベンダーとの間の緊張感を取り戻して,彼らと冷静に分析・協議を重ね,原因を究明して手を打つことだろう。しかし,いきなりそういう教科書的対策に行く前に,ユーザーとしてやるべきことがある。

 まず,システムが本当にレイムダック化しているのか,試してみることだ。使いこなす工夫もせずに「あのシステムは使い物にならない」と安易に結論を出してはならない。もし,本当にレイムダック化しているとすれば,それを公にして情報を全社で共有する。当事者は,保身のためにシステムのレイムダック化をできるだけ認めたくないし,認めても隠そうとするが,それに迎合してはならない。原因を究明して手を打つのは,その後のことである。

 従って,ユーザーはシステムを動かしてみる努力を,トコトン試みることである。その時,注意すべきことは2つある。

 1つは,改めての要求は最小限にとどめる覚悟が必要であることだ。何故なら,出来上がったシステムにはなんらかの形でユーザー要求が反映されているはずだからだ。ユーザー要求が反映されていないとすれば,無関心であったユーザー自身の責任であるし,個々のユーザーから見て多少の不満があったとしても,少なくとも,全体最適を指向しているはずだからだ。

 もう1つは,システムを動かすために,データ入力など,ユーザーとしてやるべきことは徹底してやることだ。

 現状を認めた上で,黙々とトコトンまでシステムを動かすように努力することには理由がある。1つには,このままシステムが放置されれば,一番被害を被るのはシステムの費用負担と功罪を一手に引き受けているユーザーだからである。次に,動かせる部分があれば,部分的にでも動かして少しでも道を切り開くべきだからである。そしてトコトン動かす努力の中からレイムダック化の真の原因を把握できるからである。さらに最後に対策ステージに入った時に,貝からの脱皮を図り,ユーザーの発言権を強くすることができるからである。

 使う努力をした結果,どうしても使えない時には,「使う努力をした」ことを武器にして,勇気を持って告発する。それは,とりもなおさず,「悲しい存在としてのユーザー」からの脱出を意味する。貝のごとく口を閉ざすのは,自殺行為である。システムがレイムダック化している事実を全社で共有して,初めて全社的問題として対策を始めることができる。

 最後に,ユーザーがレイムダック化したシステムに対峙した時やるべきことを整理する。

1.システムを使う工夫もせず批判するなかれ。トコトン動かす努力をせよ。
2.いつまでも要求を出し続けることをせず,全社的見地からあるところで矛を収めよ。
3.ユーザーとしてシステムを動かすためにやるべきことは,徹底してやれ。
4.それでも動かない時は,それまでの努力と経験を武器にして思い切って告発せよ。

 これらが,ユーザーが貢献できるシステム蘇生への道である。


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■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp