アイ・ティ・アール(ITR)シニア・アナリスト 金谷 敏尊 氏 金谷 敏尊 氏

アイ・ティ・アール(ITR) シニア・アナリスト
大手ユーザー企業に対してIT戦略立案やベンダー選定などへのアドバイスを提供する。ITインフラ、システム運用、セキュリティ分野を専門に幅広く活躍する。

 歴史は繰り返すというが、ITにかかわる概念や製品のトレンドにもまた何らかの循環性があると示唆されることがある。ただしこのような仮説は立証が難しく、論理思考にマッチしないことから、万人に受け入れられることはない。

 しかし、市場分析や商品開発に従事する者が、将来予測をしたり物事の行く末を案じたりする時、必死で見ようとしているのは、この周期的に繰り返す何かであることが意外と多いのではなかろうか。

 ITリサーチの大手である米フォレスターリサーチ社では、アクセス管理市場の技術トレンドとして、authentication(認証)、authorization(許可)、administration(管理)、audit(監査)の分野が、順繰りに巡ってきており、2006年まではauditに注力する時期に当たると主張している。そういえばこのごろ、監査が増えたなと実感するITスタッフは少なくないのではないだろうか。

 注目を集めるSOA(サービス指向アーキテクチャ)も歴史的に繰り返すトレンドとして指摘されるものの一つだ。過去にもオブジェクト指向やコンポーネント開発が脚光を浴びた時期があった。CORBA、COM、IBM社のサンフランシスコ・プロジェクト、EJBコンポーネントなどのムーブメントの循環がSOAであるという訳だ。

 最近のWeb2.0へ対する市場の関心も、インターネット台頭期の過熱ぶりに似ている。こうした発想は何もITに限った話ではなく、例えば音楽の世界にも似た現象がある。ヒット曲には、歌詞やサウンドは変化してもコード進行が酷似するものが何年かおきに流行する傾向があるという。

 物事の循環性が仮に認められても、その周期幅はおそらく多様であるに違いない。話はそれるかもしれないが、心理学者のユングが共時性(シンクロニシティ)の研究をしていた時に着目した現象の一つにも、人間の振舞や意識の循環があった。ある野球少年が朝出がけに玄関で石につまずく。そして昼、バッターボックスに立ち、チャンスボールを空振りしてしまうのだが、その原因は足元の小石であったというエピソードがある。

 一方、周期幅が長いケースも考えられる。例えば、カリフォルニアのゴールドラッシュとITバブルは、150年の時を経た循環との見方があるし、極端な例では、ひとつの文明が勃興して終焉するサイクルは800年だとする説すらある。

 不確実で変化の激しいIT市場の将来を見極めるのは至難の業だ。だからといって、線形予測など定量データに頼りきった予測はどうかと思う。2000年初頭にeコマース市場の将来性が過大評価されていたように常に正確なものでもない。そうした時にトレンドの循環を視野に入れれば、一歩踏み込んだ議論ができるのではないだろうか。

 さて、このような分野が研究し尽くされて、時間軸上のあらゆる事象の因果関係が説明できるようになると、投資家や金融機関は大儲けすることができるかもしれない。是非ともあやかりたいものだが、それこそ非現実的な話であり、取り越し苦労となるのは目に見えている。だが、物事の循環を視野に入れることで、トレンドの波を読む感性が幾分鋭敏になることは期待できよう。他社に先んじていち早く売れ筋のソリューションを見つけることができれば、まさしく儲けものであるに違いない。