前回までは,下請法の適用条件,親事業者に該当した場合の義務について説明してきました。今回は,親事業者に対する禁止事項について説明します。

 親事業者の禁止事項については,この連載のITサービスと下請法(1)でも簡単に触れています。そこで今回は,ITサービス事業者が特に注意しなければならない禁止事項について触れたいと思います。

 禁止事項の復習になりますが,親事業者に課せられている禁止事項は11項目あります。

表1●親事業者に課せられている禁止事項
1.受領拒否の禁止 注文した物品等の受領を拒むこと
2.下請代金の支払遅延の禁止 下請代金を成果物等の受領後60 日以内に定められた支払期日までに支払わないこと
3.下請代金の減額の禁止 あらかじめ定めた下請代金を減額すること
4.返品の禁止 受け取った物を返品すること
5.買いたたきの禁止 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること
6.購入・利用強制の禁止 親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること
7.報復措置の禁止 下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること
8.有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 有償で支給した原材料等の対価を,当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること
9.割引困難な手形の交付の禁止 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること
10.不当な経済上の利益の提供要請の禁止 下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること
11.不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止 費用を負担せずに注文内容を変更し,又は受領後にやり直しをさせること

 以下,これら11項目のうち,よく問題となり得るもの,わかりにくい項目を中心に解説します。


受領拒否の禁止

 受領拒否の禁止といっても,下請事業者が納期前に成果物を納品した場合に受領拒否したとしても,納期前には法的に成果物の受領義務がないため,ここでいう受領拒否には該当しません。親事業者が任意に受領することはかまいませんが,仮受領(注1)という形で受領しておかないと,受領した日から起算して60日以内に代金を支払う必要が出てきますので注意が必要です。最終的なユーザー事業者からのキャンセルを理由として,親事業者が成果物を受領しない場合は受領拒否に該当します。


下請代金の支払遅延の禁止

 下請代金を成果物等の受領後60日以内の,定められた支払期日までに支払わないことは禁止されています。ただし,受領した成果物に下請事業者の責任による瑕疵(かし)等が発見された場合には,瑕疵(かし)を修補した後の情報成果物の受領日が,支払期日の起算日になります。受領日の変更理由は,あくまでも「下請事業者の責任による瑕疵」など下請事業者側の問題,事情である必要があります。ユーザー事業者からの支払がないなど,親事業者側の事情は考慮されませんので注意が必要です。

 また,知的財産権を含む成果物の代金を,売り上げなどに応じてロイヤルティ等の成功報酬で支払うことがあります。この場合も成果物の受領後60日以内に支払わないと支払遅延禁止違反となるのか,という問題があります。これについては,情報成果物の作成対価に当たる部分を,60日以内の定められた期日に支払えば,ロイヤルティ等の支払いがその期日後になっても支払い遅延の禁止には当たらないとされています。

 なお,検収と支払期日の問題については,前回の「下請代金は給付受領から60日以内の定められた日までに支払う」で説明していますので,そちらを参照してください。


下請代金の減額の禁止

 情報成果物の作成を委託する場合,下請事業者の能力不足など下請事業者の責任とすべき事由で成果物が完成せず,やむを得ず親事業者が残りの部分を自ら完成させることがあります。この場合,親事業者が自ら完成させた部分の代金を減額したとしても,禁止違反にはなりません。ただし,こうした減額が認められるのは,あくまで下請事業者に責任がある場合だけであり,親事業者の発注に問題がある場合など,親事業者の責任とすべき事由がある場合には,下請代金の減額はできないことになります。

 このほか,下請代金を銀行振り込みで支払う場合,振込手数料を差し引いて支払うためには,下請事業者との間で書面による合意が必要ですので,注意が必要です。


返品の禁止

 すべての返品が禁止されるわけではありません。成果物等を受領した後に,その物品等に瑕疵(かし)があるなど,明らかに下請事業者に責任がある場合に返品するのは認められます。それ以外の事由で受領後に返品することは許されません。


買いたたきの禁止

 この禁止事項は,下請代金の額を決定する際に,親事業者が地位を利用して限度を超えた低価格を下請事業者に押し付け,下請事業者の経営を圧迫することを防止するためにあります(注2)。買いたたきに該当するおそれがある行為には,「見積もり段階より発注内容が増加しているにもかかわらず代金額を見直さず,当初の見積価格を下請代金の額として定める」「情報成果物作成委託において,知的財産権の対価について,下請事業者と協議しないで,一方的に通常支払われる対価より低い額を定める」などがあります。


割引困難な手形の交付の禁止

 抽象的には,一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形が,割引困難な手形ということになります。公正取引委員会は,手形の振出日から支払期日までの「手形期間」が120日を超える手形は割引困難な手形であると判断しています。


不当な経済上の利益の提供要請の禁止

 不当な経済上の利益の提供要請とは,親事業者が下請事業者に金銭・労務などを提供させることをいいます。情報サービスの受注に際しては,受注決定前に受注に関連した協力活動(ユーザー企業への提案内容の策定など)を実施することがあります。下請事業者が協力活動によって直接的な利益を得ており,かつ下請事業者の任意にもとづく協力活動であれば下請法違反の問題にはなりませんが,強要した場合には,不当な経済上の利益の提供要請として下請法違反となり得ます。

 以上,下請法に定められている親事業者に対する禁止事項を説明してきました。一見簡単なように見えて,実務に適用しようとすると簡単には当てはめられない場合があります。少しでも疑問に思える点があれば,公正取引委員会に確認してみるなど,専門家の意見を聞いた上で対応する必要があるでしょう。

(注1)仮受領とするためには,納期日まで納品物を保管しておく必要があります
(注2)「買いたたき」と「下請代金の減額」の違いは,「買いたたき」が,発注時点で生ずるものであるのに対し,「下請代金の減額」は,いったん決定された下請代金の額を事後的に減らすものである点です


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。